約 1,076,933 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1880.html
サーレーの眼の前では有り得ない光景が広がっていた。 (さっきまで俺はカプリ島に居たはずなのになあ。) サーレーの眼の前では何やら広場で人が集まっている さっきからサーレーやサーレーの前にいるブロンドの少女を凝視しており目立つ事に抵抗のあるサーレーは一種の不快感を覚えた。 (何なんだ、この場所は。俺はカプリ島でスタンド攻撃に会ったはずじゃあ・・・。) 「ねえ、あんた。」 サーレーの目の前にいたブロンドの少女がサーレーに話しかける。 何だか不機嫌そうだ。 (俺、何かしたかぁ?) サーレーが呑気にそう考えていると長―――――い沈黙がさっきの少女の一言でいっぺんに、堰を切った潮流の様に口々に何かを喋りだし、中には少女に対する嘲笑の聞こえてきた。 「「「「ワハハハハハッハハハハハッハハ!!!!」」」」」 「まさか平民を呼び出すとは、流石ゼロのルイズ!」 「最高にハイってやつだアアアアァァァァ!!!」 「クセー!!ゼロ以下の臭いがプンプンするぜ!!」 何か吸血鬼と顔に傷が有る男が見える。頭痛い。 何なんだよ。 「コルベール先生!サモン・サーヴァントのやり直しを要求します!」 「しかし、規則ではあなたはこの青年と契約しなくては・・・。」 「平民と契約するなんて聞いたことありません!!」 (サモン・サーヴァントって何だ?) するとサーレーの目の前にスタンドと思しき生き物が眼の中に入ってきた。 注意 こいつらは本来サモン・サーヴァントで呼ばれた使い魔なのですが、サーレーは頭に銃弾+見たことの無いものによるショックで混乱しています。 サーレーの頭の中に不吉な何かが過ぎった。 (まさか!ここがうわさに聞いたパッショーネのスタンド養成施設!!) 噂によればパッショーネにはポルポがいなくなった時のためにスタンド使いの養成施設が有るとか無いとか聞いたことが有る! そしてあの小娘は俺にサモン・サーヴァントとか言うスタンドで俺を呼び出して・・・・。 注意 このサーレー、頭に銃弾を受けてかなり頭がキテマス。 こういうところに裏切り者を呼び出してギャングなら教えることは一つ! そう!始末の仕方!! (こ、殺される!) ルイズの態度と周りの状況をキチンと見ればそうでない事など一目瞭然なのだが・・・。 「しかし、ミス・ヴァリエール。君の使い魔が逃げてしまっては、やり直ししようにも出来ないのだが。」 「え、ええ!?」 「ヴァリエールの使い魔がにげたー!!」 皆がサーレーの方を向くとサーレーはもう既に200メートル近く走りきった後だった。 『第一話 サーレーのトリステン逃避行』 (殺される!何か知らんけど殺される!!) やっぱりこのサーレー、脳にめり込んだ銃弾が脳に結構なダメージを残しているようです。 サーレーは広場の近くにあった森に一直線に走っていった。 伊達にギャングで荒事をかたずけているだけあって、体力には自信がある! 400メートルほど走ったところで一本の木にぶち当たった。 「よし、ここなら良いな・・・。クラフトワーク!!」 サーレーはクラフトワークに木の枝を掴ませそのまま本体ごと登っていった。 な、何なのよ!あの男、何か幽霊みたいなものに自分をつかませて木に登って行ったわ! 「お、おいアイツ空に浮いているぞ!」 私の近くの生徒が指を私の使い魔(仮)に向けて慌てていた。 「もしかしてアイツ、メイジか!?」 まさか皆あの幽霊が見えていない? 「何をしているのですか!ミス・ヴァリエール!追いますよ!」 コルベール先生が少し遠い所で叫んだ。 マジで勘弁してよ、このコッパゲ! 一方、逃げているサーレーは・・・。 「・・・これでヨシッと。」 木のテッペンで木の葉を何枚か集めるとそこから立ち上がりもう一人の自分の名を呼んだ。 「クラフトワ―――――――ク!」 そして木の葉を空中にまく。 「この木の葉を『固定』しろ!!」 するとさっきまで空を舞っていた木の葉がイキナリ、テープの一時停止を押したみたいに止る。 「よし、これで逃げる準備は整ったな。」 サーレーはその木の葉を使って器用に向こう側の木に乗り移った。 そしてまた、さっきの要領で木のテッペンに登り・・・というのを繰り返して行っていた。 「このままイタリアに帰るウウウウウ!!」 まだ別世界だということが分かっていないイチャッテル、ハイなサーレーなのであった。 「WWWWWRRRRRRRRRRYYYYYYYYYYYYY!!!」 そうしていると後ろが何やら騒がしい。そう思って後ろを向いてみると大量のフライで空を飛んでいるメイジたちが追ってきていた。 「おい!あそこにいたぞ!!」 「な、何ぃいいいいい!!木の上で隠れたのに何でこっちの居場所が割れてんだァァァ!!!」 あんたが大声出したからだろうが・・・。 コルベール先生や他の生徒たちはフライで飛んで言った。 私はフライを使っても爆発して失敗する。 そういって皆、私を馬鹿にする。 ここまで来て今度は平民を使い魔として呼び出し(しかも何か叫んでる変人!)しかも逃げられる! こんなのってアリ!? もういやよ・・・。 ルイズは力なくその場にへたれこんだ。 「うおお!?」 サーレーの目の前に火球と突風が舞う。 メイジたちがサーレーに攻撃を始めていた。 「S・H・I・T!飛び回りやがって!攻撃が当てられねえじゃねえか!!」 嘗めやがって! 俺のクラフトワークは火炎とか風とかは『固定』の範囲外だ。 その上、木の葉の安定しない小さな足場が邪魔でしょうがない! 「・・・ちッ。一旦地面に退避するか。」 地面の上での白兵戦はクラフトワークの得意分野だ。 地面でなら固定化はたやすく行える。 流石にこの木の数だ。何とか白兵戦に持ち込めるはず・・・・。 そう思っているとイキナリまた横から火の玉が飛んできた。 「チッ!面倒だ!」 サーレーは手に持っていた葉っぱを火の玉に向けて無造作に投げ、固定化する。 火の玉はサーレーの木の葉に掛けられた固定化のパワーと相殺しあい宙で爆発して消えた。 「あなた、さっきも見ていたけどメイジなの?」 サーレーに火の玉を放った赤い髪の女性のほうを見る。 「ああ?なんだ、そりゃ。食いものか?」 「あんた!メイジを知らないの!?」 「知ら、んな!」 サーレーは後ろからの氷の矢を避けるとすれ違いざまに『固定』を掛ける。 サーレーが後ろを見るとそこには12歳~14歳くらいの青い髪の少女が自分の身長より大きい杖を構えていた。 「こんなガキまで・・・。」 「ファイヤーボール!!」 後ろでさっきの赤い髪の女の声がする。 「なに!クラフトワ―ク!!」 サーレーは木の葉から飛び降りると氷の矢の固定化を解除する。 火の玉と氷の矢は空中で相殺される。 「皆さん!殺してはなりません!止めるだけです!!」 そういう声が聞こえたがサーレーはもうすでに地面に落ちて行っていた。 ルイズは遠巻きで森の中を走りながら謎の男と生徒たちの攻防を見ていた。 謎の男は謎の無詠唱の魔法で氷や土の魔法を止め、それをうまく利用し火や風の魔法を相殺していた。 使い魔とは一種のメイジのステータスだ。あれだけの使い魔を呼び出した自分はすごいんだ。 もう誰にも馬鹿にされない。 ルイズの中には一種の希望が見出されていた。 (もしかしたら私はもうゼロじゃないのかもしれない・・・。) すると謎の男が地面に落ちてきた。 高い場所から落ちたのにうまく着地し、また戦闘態勢を整える。 「オラオラァ!もう終わりか!?アア!?」 もしかしてこのあたりで・・・あ、いたいた。 ルイズは近くでゴーレムの用意をしていたギーシュを見つける。 「ギーシュ!!」 「ん?ああ、ミス・ヴァリエールか君の使い魔。いったいなんだい。」 「どうでも良いから!あたしにレビテーションをかけて。」 「はあ?」「早く!!」 ルイズは鬼気迫る表情で叫んだ。 「まだまだァ!」 サーレーはクラフトワークの拳で風や土の魔法を弾きつつ、逃げ道を探していた。 するとサーレーの視界に何やら宙に舞っている少女が見えた。 「いい、ギーシュ!しっかり飛ばすのよ!」 「正気かい!?」 「大丈夫!何とかする。」 何かやばい気がする・・・まさか・・・。 「いいわ!やって!」 「ええい!もうドウにでもなれェ!!」 金髪のガキが造花のようなものを俺に振った。 するとあのブロンドのガキが俺に向かってきた。 しかも飛んで、猛スピードで! 「うおおお!!」 ごちん! ブロンドのガキと俺の頭がド派手に火花を散らした。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1023.html
「全く。手間のかかる子だわ」 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールとジョセフ・ジョースターが、二人、凛と立つ。 垣間見えた表情は、あんな巨大ゴーレムを前にしてるというのに恐れなんか微塵も無い。むしろ敵とすら認識してない感じ。 ここまで随分と時間をかけさせてくれたものだわ。私達もそうだけど、フーケにしたっていい面の皮ってものだわね。あたしならここまでバカにされたら怒り狂うわ。 精神力は随分と消耗したし、気を抜いたら今にも眠ってしまいそう。こんな埃っぽい場所で徹夜だなんて肌に悪いわ。東の空なんか白み始めてるじゃない。 あの二人と来たら、戦場だというのに見てて恥ずかしくなるようなやり取りを平気でしてるし。あたし達が見てるってことを忘れてるのかしら。それとも気にしてないのかしら。あれは多分、気にしてない方だ。 あーあーやだやだ、これだからバカップルってものは。まあその御代としてこれからあのおチビをからかう材料くらいにはしとかないとワリに合わない。ダーリンはからかっても軽くあしらうけど、ルイズを恥ずかしがらせるトスだと考えたらそれはそれで。 「ごめんねータバサ。とんだモノに付き合わせたわね」 タバサは気にしてないと思うけど、それでも一応の礼儀として謝りは入れておく。 「あれはあの二人にとっての通過儀礼として必要と判断。どうせフーケはハーミットパープルで幾らでも追跡可能」 あ、でもちょっと眠そう。私以外には判りにくいくらい、無表情の陰に隠れてるけど。 ここからが本番なんだし、もうちょっと頑張るわよ。お互い。 それにしても。タバサのシルフィードにしたって、ルイズのジョセフにしたって。 私のフレイムは大当たりも大当たりのはずなんだけど。 ……自信なくすわー。 「で、ジョセフ。勝つ方法があるのよね。どうすればいいの」 「うむ。まず下準備がちと必要での」 ジョセフはひとまずルイズを背中に背負うと、いきなりゴーレムに背を向けて走り出す。 「ちょ! いきなり逃げるとかナシじゃない!?」 「じゃから下準備がいるっつったじゃろ!」 さっきまでのやり取りはどこへやら、普段の雰囲気に逆戻りした二人。だがあさっての方向に向かって走っているわけではなく、シルフィードが飛んでいる方向へ向かっている。 「タバサ! イチゴのパスケットを渡してくれ!」 ジョセフの声にタバサが風の魔法でイチゴ一杯のバスケットを包み込むと、そのままジョセフに向かって投げ渡す。 精密動作に優れたタバサの風は、イチゴの一つも落とすことなくジョセフにバスケットを届けた。 「この期に及んでイチゴなんか何の役に立つのよ!」 普通の人間は巨大ゴーレムの戦いにイチゴを持って行かない。ルイズの怒りももっともだ。 だが、ジョセフは背中のルイズにイチゴを一粒投げて渡し、自分も一粒口に放り込んだ。 「コイツがなァ……あのゴーレムをブッちめるわしの切り札なんじゃよ。ルイズよォ~~~」 ヘタを地面に吐き捨てて、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるジョセフ。 非常に信用ならないが、ルイズはイチゴと罵詈雑言を飲み込んで、言った。 「……信じるわよ」 「オーケーご主人様! んじゃ、もうちょい下準備に時間がかかりますんでのォ! もうちょい逃げさせてもらいますかのォ! 二人とも! もうちょい空におっとってくれ!」 ゴーレムを小馬鹿にするように、ジョセフは勢い良くクレーターばかりの地面を駆け巡る。 おんぶされているルイズには、見えないはずのジョセフの顔がありありと見えた。 (ブン殴ってやりたいほど楽しそうな顔してんだろうなあ。コイツ) その予想は全く外れていなかった。 そして一分ほど走った後、ジョセフはシルフィードのほぼ真下へと到着すると、大きく声を上げた。 「三人とも! あやつのドテっ腹にありったけの魔法をブチ込んでくれィッ! パーッと行こうじゃないかッ、せっかくのフィナーレなんじゃからのォッ!!」 と言ってから、ルイズにゆるりと振り向く。 「まだイケるか、ルイズ」 不眠で夜明けを迎えようとしている三人に対し、ルイズは仮眠をとっている。その瞳に疲労というものは一切なかった。 「誰に聞いてるのよ。私はアンタのご主人様よ?」 「オーケー! んじゃ、ハデにやっちまってくれィッ!!」 ジョセフの叫びと同時に、ゴーレムの胴体へ次々と魔法が打ち込まれる。 炎の槍が外皮を焦がし、風のドリルが胴体を抉り、ゴーレムの腹が爆発する。 しかしこれまで何度も繰り返されてきた光景と同じように、地面に落ちた土はすぐさま元あった場所に戻ろうとする。 だが。繰り返されようとした光景に、一人の男が駆け込んで割り込んだ。 頭に帽子、左手に剣、右手にイチゴ満載のパスケット、背中にピンク髪の美少女という珍妙な出で立ちの男は、元あった場所に戻ろうとする土塊目掛け…… 遠心力をフルに使ってバスケットを振り回し、大量のイチゴをばら撒いたッ! しかしばら撒かれたイチゴはただのイチゴではない。一分間走っている間にジョセフがくっつく波紋を大量に流し込んだ、特製波紋イチゴッ! 土塊に付着した大量のイチゴは、土塊達と共に浮かび上がり、ゴーレムを形成するパーツに含まれようとする。 そしてジョセフはバスケットを地面に投げ捨てると、続いて右腕をゴーレムに向けて突き出した! 「ハーミットパープルッ! イチゴを追いかけろッッ!!」 スタンドパワー全開で迸る紫の茨は、普段のように二、三本などというものではない。数十本もの茨が一斉にジョセフの右腕から奔り、再生しようとする土塊達の間を割ってイチゴ達を捕らえていく。 しかも今回迸ったハーミットパープルも、またただのハーミットパープルではない。 こちらはイチゴとは違い、大量の反発する波紋を流し込んでいる茨である。土塊の中に入り込んでも、茨に入った波紋が土塊を押し退け、茨が潰れることなどありはしない。 果たしてゴーレムは再生を遂げたものの、その胴体にはイチゴを追いかけて張り巡らされたハーミットパープルが、まるで人間の身体で言うところの血管のように割り込んでいた。 「さあこっからじゃルイズッ! 『ゴーレムの身体の中』にッ!! ありったけの『魔法』をブチ込んでやれィーーーーッッッ」 言われるまでもない。ジョセフが奔らせたハーミットパープルがイチゴを追って行った時に、やらなければならないことをルイズは既に理解していた。 ルイズは返事する代わりに、最初に使うべき呪文の詠唱をとっくに終え―― 「ファイアーボールッッッッ!!!」 今のゴーレムは、土塊がみっちりと詰まった通常のそれではなく、胴体に大量の隙間を作られたもの。そして閉鎖された空間で起こった爆発はエネルギーが逃げることも出来ず、開けた空間と比べて甚大な破壊力を持つことになる。 ルイズの呪文が完成したと同時に消えたハーミットパープルだが、反発する波紋をたっぷり流されたゴーレムは張り巡らされた空間に土塊を集めて再生することも出来ない。 しかもルイズの起こす爆発はジョセフをして「威力だけならわしの波紋のビートより遥かに上」とお墨付きの破壊力を持つ。そして思った場所に着弾させる命中率も非常に高い。 ハーミットパープルが隙間を作ったとは言え、その直径は大きくないどころか、狭いと言うしかない。だがゴーレムの表面では一度も爆発は起こらなかった。完成した空隙に爆発魔法が寸分なく入り込んだことの証明である。 とにかく早く、とにかく正確に。 『魔法成功率ゼロ』の仇名を払拭する為に幾百回も繰り返された練習の成果が今、ここで結実した。 ルイズが一度魔法を唱えるたびに、ゴーレムの中から爆発が起こり、胴体が見る見るうちに吹き飛び、削られ、消し飛んでいき―― 「これでもッッッッ!!! 食らえぇぇぇぇえええええッッッ!!!!」 裂帛の気合を込めた魔法が起こした、一際大きな爆発。 胸も腹も吹き飛ばされ、大地の重力に引かれた頭部が残った下半身に落ち、地響きと土塊混じりの突風が巻き起こり…… ゴーレムは、土塊の小山に成り果てた。 荒い呼吸を繰り返すルイズ。ルイズを背負ったまま、当然のように笑みを浮かべているジョセフ。シルフィードに乗ったまま、今しがた起こった出来事に大きく目を見開いているキュルケ。普段通りの無表情な唇の端に、ほんの僅かに笑みを乗せているタバサ。 ゴーレムを構成していた魔力も消し飛んだ土塊の小山は、もはやぴくりとも動かない。 「…………勝っ、た…………?」 まだ杖を突き出したままだったルイズの手が、くたり、とジョセフの肩に落ちた。 「勝った、わね……」 キュルケが、ごくり、と唾を飲み込んだ。 「勝った」 タバサが、こくり、と頷いた。 「ああ。わしらの勝ちじゃ」 ジョセフが、にやり、と笑った。 キュルケは花火のように歓喜を爆発させて、手近にいるタバサに抱き付いた。 「タバサタバサタバサタバサっ! やった、やったわよ、ルイズがやったわ!」 「見たら判る」 そう言いつつも、タバサはシルフィードを着地させる。まだシルフィードが着地しきってないのにキュルケは待ちきれないとばかりに地面に降り、二人に向かって駆け出す。 まだルイズは今起こったことが信じられないようで、ジョセフの背から降りてもこれが現実かどうか確かめようとほっぺたをつねって痛がっていた。 「ルイズルイズルイズルイズっ! あんたやったじゃない! やったわよあんた!」 小柄な身体を力いっぱい抱きしめると、そのまま勢い良く振り回す。 「ちょっ! やめ、目が回るっ!」 ルイズの抗議もなんのそのとばかりに振り回しているキュルケをよそに、ゆっくりと三人に歩いていくタバサ。 そんな時だった。 微笑ましげに少女達を見守っていたジョセフは、まるで操り人形が突然糸を切られたかのような唐突さで、地面に倒れ伏した。 「……え?」 やっとキュルケから解放されたルイズも、まだ抱きしめ足りないとばかりにもう一度ルイズを捕まえようとしていたキュルケも、やっと三人の近くにやってきたタバサも。 一瞬呆然と倒れたジョセフを見た後、慌ててジョセフに駆け寄って跪いた。 「ちょっ! ジョセフ!? ジョセフ!」 パニックになってジョセフの身体を両手で揺さ振り、懸命に名を呼ぶルイズ。 「ウソでしょ!? どうしたのよダーリン!」 キュルケも今起きた事態を把握すると、ジョセフから顔を上げてタバサを見た。 「……脈は、ある」 ジョセフの手首をつかんだタバサが、彼女には珍しくルイズにも判るほどの焦りを見せていた。ジョセフはルイズ達の呼びかけにも返事をせず、ただ目を閉じて倒れ伏していた。 「早く学院に連れて帰るのよ! 治癒してもらわなくちゃ!」 「判ってるわ! ジョセフをレビテーションで……!」 キュルケの声に、タバサが急いでレビテーションの魔法をかけようとした時、何者かがゆっくりと近付いてくる足音が聞こえた。 精神力もほとんど使い果たした三人は、それでも反射的に足音の主に杖を向けた。 だが、向けられた杖はゆっくりと下ろされることになった。 「……ミス・ロングビル……?」 その足音の主は、三人がよく見知った女性だったからだ。 魔法学院学院長オスマンの秘書である、ミス・ロングビル。 よくオスマンにセクハラされては彼を容赦なく殴り倒す、緑の髪に眼鏡の美女を見間違えるはずはない。 どうしてこんなところに? という疑問を三人が抱いたのも仕方がない。 しかしロングビルは、三人と、地面に倒れ伏したジョセフを一瞥し。 唱え終えていた呪文を完成させた。 その瞬間、彼女の横の地面が凄まじい勢いで隆起し。三人の少女が呆然と見上げる前で、あまりにも見覚えのありすぎるゴーレムが、立ち上がった。 「…………ど、どうしてっ…………」 呻きにも似た絶望的な声が、ルイズの唇から漏れる。 「ジジイがそのザマじゃあ、もうあたしの勝ちは決まったようなモンさ。あの時にちゃんととどめを刺しとけばこんな事にゃならなかったがねッ」 清楚で理知的な雰囲気はかなぐり捨て、汚い口調で吐き捨てるロングビル。 「ミ……いや、ロングビル! あんたがッ……フーケだったっての!」 キュルケの詰問に、ロングビルだった彼女は、嫌らしく笑った。 「その通りさ。あのドスケベジジイのセクハラされながらやっと破壊の杖を手に入れたってのに、まさかこんなに早く追いつかれるとは予想もしてなかったさ。しかも私のゴーレムが吹き飛ばされるだなんて、もっと思ってなかったがねッ!」 だがフーケは自分の勝利を信じて疑わない笑みで、ルイズ達に杖を向けた。 「だがあたしはまだゴーレムを用意できる! アンタ達にはジジイがいないッ! これがどういうことか判るかいッ! あたしはここでアンタ達を始末して、何食わぬ顔で学院に戻るッ! そして秘書ヅラして適当な教師を案内して、破壊の杖の使い方を吐かせるのさッ!」 勝利を確信したフーケは、自分の計画をさも楽しげに紡ぎ、貴族の小娘達を屈辱と敗北に塗れさせる言葉を投げていた。 だがフーケの期待とは裏腹に、三人はただ黙って聞いているだけだった。 そしてその瞳に、恐怖や怯えは全くない。それがロングビルの怒りを煽り立てる。 不意に、三人が、口を開き。全く同じ言葉を言ってのけた。 「次にお前は『このクソガキどもがゴーレムで踏み潰してミンチにしてやる』と言う」 「こっ……このクソガキどもが! ゴーレムで踏み潰してミンチにしてやッ……はッ!?」 今から言うはずだった言葉を言い当てられて虚を付かれる。 「ファイアーボールッ!」 フーケが我に帰った瞬間、ルイズの魔法が炸裂し、爆風がフーケが一瞬前にいた空間で炸裂する。 「こッ……このクソガキがァーーーーーーッッッ」 爆風から間一髪逃れたフーケは、すぐさま三人めがけて魔法を撃とうとし……晴れていく土煙の向こうに、信じられないものを見た。 三人の少女は地面にしゃがみこみ、両手で耳を塞いでいる。 そしてその後ろには、確かに自分が盗み出したはずの破壊の杖を構えているジョセフ―― 凄まじい爆音が轟き、自慢のゴーレムの上半身が消し飛んで。下半身しか残っていないゴーレムが土塊の山に戻る光景さえ、満足に見届けることが出来なかった。 フーケは知らない。ジョセフが倒れたのは自分を誘い出す為の罠だった事を。倒れたままハーミットパープルを三人の後頭部に這わせ、骨伝導の理論を用いて言葉を伝えていたことを。 何より、ジョセフに三回も同じ手を使うことは、凡策を通り越して愚策だということを。 次の瞬間、デルフリンガーを構えたジョセフがフーケの眼前に飛び込み……デルフリンガーの柄が、彼女の鳩尾にめり込んでいた。 「ま…これで戦いの年季の違いというのがよおーくわかったじゃろう。『相手が勝ち誇ったときそいつはすでに敗北している』、これがジョセフ・ジョースターのやり方。 老いてますます健在というところかな」 その言葉を最後まで聞くこともなく、フーケは土塊の残骸に崩れ落ちた。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/643.html
「我が導きに…答えなさい!」 ズドォォーン! 「ゲホッ、ゲホッ…何だ? 『ゼロ』のルイズはサモン・サーヴァントも失敗か?」 「いや…何かいるぞ」 煙の中から現れた『そいつ』は…胸にハートを逆さまにしたような意匠を持ち、頭部からは後方へ反り返った角のようなものが生えていた。 ルイズは内心興奮しながら『そいつ』に歩み寄り、契約のを交わすための呪文を唱える 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 五つの力を司るペンタゴン…この者に祝福を与え我の使い魔となせ」 そして『そいつ』に口づけようとした瞬間、 ンーーーゥゥブ 彼女の顔のすぐそばを虫が後ろ向きに飛んでいった。 「!?」 周囲を見回すと、周りにいる他の生徒たちの動きもおかしい。まるで巻き戻されているかのような…… 「巻き戻っている…じ、時間が逆行している!?」 困惑するルイズに、『そいつ』が語りかける 「コレハ……『レクイエム』…ダ! オマエガ見テイルモノハ確カニ『真実』ダ…シカシ…… 実際ニ起コル『真実』ニ到達スル事ハ決シテナイ! ワタシノ前ニ立ツ者ハ、ドンナ能力ヲ持トート、絶対ニ! 行ク事ハナイ! コレガ、『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』!」 (……ハッ!?) ――宇宙の果てのどこかにいる私の使い魔よ…… (何を…喋っているの……私は!? わ……私はッ…! 始めから何も喚んでいないッ!!) ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール――召喚失敗
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/730.html
トリッシュ。父親に命を奪われかけ、そして間接的ではあるがその父親を殺した少女 彼女は一人墓地に佇む。 彼女は死んだ母親の墓に全てが終わったことを告げ、立ち去るその時だった。 「なにこれ?」 彼女の行く手を遮るように現れた鏡のようなもの。それを見た彼女がまず考えたことは 「スタンドの攻撃?!」 彼女の父親はかつてイタリア全土に広がるギャングを率いており、それを倒したのは 彼女を救った組織の裏切者たちである。 現在はその仲間の一人がそのギャングのボスとなり君臨しているが、組織を手に入れてから日が浅く 未だ全てを手中にはしていなかった。 そして、自分たちがしたように組織を手に入ようとする裏切り者が動くには組織が混乱している 今が絶好の機会と言えた。 「スパイスガール!」 先手必勝とばかりに自身のスタンドを発現させ、鏡に向けて拳を叩き込む! だが、鏡に触れた瞬間!鏡の内側に引きずり込まれるように彼女のスタンドがめり込んでいった! 『トリッシュ!トッテモマズイヨーナ気ガシマス!』 「マズイようなじゃなくてマズイのよッ!」 鏡の内側に引きずり込まれようとするスパイス・ガールと手を繋ぎ、トリッシュは墓にしがみつく。 『頑張ッテトリッシュ!負ケナイデモウ少シッ!』 「最後まで、は…ってこんな時になに言ってんのよ!」 ギリギリと引っ張られトリッシュの腕に苦痛が走る。 「スパイス・ガール……」 『ドウシマシタ?!トリッシュ!』 「もうダメ、限界」 『OH MY GOD!』 その後、見知らぬ男にキスされた所までを夢で見たトリッシュが眼を覚まして初めて見たものは 中年のハゲと薔薇を胸に挿した男が自分の服を摘んで胸を覗き込んでいる光景だった。 「イヤアアアアアアア!!」 女性の叫び声で眼を覚ましたマリコルヌが初めて見たものは、天井に張り付けられた 教師のコルベールと級友のギーシュの姿だった。 そして次に見たものは物凄い形相で自分を見下ろす使い魔だった。 「ここどこ?アンタだれ?」 言葉に詰まり思わずマリコルヌは起き上がろうとして身体がベッドに張り付いていることに気付き、 使い魔の手に握られた釣り針と虫眼鏡を見て…それを見なかったことにして質問に答えた。 「ここはトリステイン魔法学院です。僕はマリコルヌと言います」 冷や汗を流しながら機械的な言葉使いでマリコルヌは答えると、それを見た使い魔が顔を近づけ その赤い舌でぺロっと汗を舐めあげた。 「この味は嘘を付いていない味ね」 「そうともここはトリステイン魔法学院!わかったら早く僕を降ろしたまえ!」 「君は使い魔として召喚されたんだ!いい加減に私を降ろしてくれ!」 「アンタたちには聞いてないわよ!」 二人に向けて使い魔が怒鳴り、ベッドの横の小物入れに置かれていた花瓶を天上に 張り付けられた二人に向けて投げつけ、それがギーシュの顔に直撃し彼は気絶した。 「で、アンタ敵?味方?」 「ええと、味方、です。ハイ」 その後、懇切丁寧かつ紳士的に状況を説明し何とか信じてもらえることに成功した。 質問に答えるたびにほっぺたを舐められ何度も気絶しそうになった。 「ふ~ん、信じられないけど嘘は付いてないみたいね」 「そう言うことなんだ!だから僕を降ろしたまえ!」 「あ~もう一つ聞くの忘れてたわ、これはアンタには答えられないわね」 使い魔がそう言ってどうやったかは判らないが、ベッドに張り付けられていた僕を立たせ 部屋の外に追い出した後、部屋の中からやたら軽快な音楽と二人の悲鳴が響き渡った。 「しばらくはアンタの世話になるしかない訳ね」 「そそ、そう言うことにな、なるね」 夜になりこれからのことを二人で話し合って、トリッシュは使い魔になることを承諾する。 「それで私はなにすれば言い訳?」 「ななナニって言われても…」 『ナニ』と言う言葉に反応する股間を押さえつつ、マリコルヌは考えた。 ハッキリ言って彼女を通常の使い魔と同列に扱うつもりは無かった。なにせ一目惚れである。 それに現在感覚の共有もできなく、秘薬の材料を探すことも彼女には無理だろう。 あとは身を守らせる事くらいだがそれは却下だ。好きな女の子を危険に晒すなどできない。 「と、とりあえず普通に生活してくれればいいよ。ウン」 「そう?ま、何かあったら言ってよ。ただで世話になるのもちょっとね」 恩には恩を、仇には仇を。トリッシュの脳裡に恩人の顔がよぎった。 「わ、判ったよ、もう遅いし後のことは明日にしよう」 「そうね、ところで私はどこで寝ればいいの?」 マリコルヌの部屋にはベッドが一つしかない。まさか二人一緒に寝るわけにもいかないと、 トリッシュはマリコルヌに尋ねた。 「いいよベッドを使ってもらって。ぼ、僕はここで寝るから」 そう言って毛布を被りマリコルヌは床に寝転ぶ。 「ちょ、ちょっと!普通逆じゃない?!私が床でアンタがベッドじゃないの?」 「僕なら平気さ!床で寝るの好きなんだ!」 そんな訳はないとトリッシュは思ったが、マリコルヌの好意に甘えることにした 「判ったわ、おやすみマリコルヌ」 「うん、おやすみ…そう言えば名前、聞いてなかった」 ふとマリコルヌはまだ自分の使い魔の名前を聞いてなかったことに気付いた。 「…トリッシュ。トリッシュ・ウナよ」 「うん、おやすみトリッシュ」 明かりが消え、暗闇の中でモゾモゾと動く気配をトリッシュは感じた。 やはり床では寝にくいようだ。 (スパイス・ガール) 『ワカリマシタ』 スパイス・ガールの手がマリコルヌの寝る床に触る。 (あれ?床ってこんなに柔らかかったっけ?) 急に柔らかくなった床に疑問を持ったが、疲れきっていたマリコルヌはすぐに寝てしまった。 (それにしても異世界か…とんでもない事になっちゃったわね。 でも、このマリコルヌって人が良い人でよかったわ。ちょっと挙動不審だけど) 元いた世界の仲間たちの事を思い浮かべながら、トリッシュの意識は暗闇へと落ちていった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1967.html
「魔法…って!ジョ、ジョルノさん、いえジョルノ様って貴族の方だったんですか!? そうとは知らず無礼な真似をして申し訳ございませんっ。」 「いや、貴族であるかないかと聞かれたら僕は貴族ではありません。 説明しにくいのですがこれは魔法ではなく……」 どう理解できるように説明すればいいか考えているとさらなる訪問者が。 「朝から騒がしいわよ、あなた達。」 部屋を覗き込んだトカゲの風貌をしたモンスターを従えるその女はキュルケという名。どうやら彼女にも僕のG・Eは見えていないようだ。 ではこの生物はどう説明できる?スタンドでは無いとすると…しかし大柄なトカゲと言い切るには尻尾の先に灯る炎が余計だ。 絵本や漫画で見るようなファンタジックなモンスターが目の前にいる。 G・Eで確認すると確かに生物としての器官や骨格を持っていることが分かる。 どうにもスタンド能力としては説明できない結果。 「へぇ、改めて見るけどなかなか整った顔をしてるわねぇ、貴方。」 なんだこの女。僕の嫌いなタイプだ。 「で・も。やっぱりアタシのフレイムの方がよっぽど使い魔として使えそうよね。 平民の使い魔なんかで役に立つことなんてあるのかしら?身の回りのお世話 意・外・に。 まぁルイズにはお似合いだけど。」 やはりこのトカゲは彼女達に“見えて”いる。 「何よ、ジョルノには物を生きも…もがもが」 ふぅ、あぶない。すんでのところで口を塞ぐことが出来た。 スタンド能力を不特定多数に知られるということは弱点を作ることに繋がる。 「ご主人様に向かって何をしてるのよ、この、馬鹿犬!」 「痛ッ!」 容赦なく向う脛を蹴り飛ばされる。酷い女だ。 「へぇ、ジョルノって言うんだ。またね、ジョルノ。」 「は、はぁ…」 キュルケという女はそのまま階段の方へと向かっていったようだ。 朝食、の時間か。そういえば昨日から何も食べていないな。 故郷ネアポリスに帰ってピッツァが食べたいな……シンプルなマルガリータを… 「あ、仕事に遅れちゃいますのでこれで失礼します、では。」 シエスタも続けて去っていった。 「ッ!何をしているんだ君はッ!?」 「何って着替えよ、着替え。あなたが着替えさせてくれないから仕方なく自分で着替えてるんでしょう。」 問題はそこじゃない、僕は一応男なんだ。その目の前でいきなり裸になる女性がいるかッ? 「別に使い魔に見られたって何も恥ずかしくは無いわ。」 ああもうッ!こいつと話していると神経が磨り減る。 バタンッと扉を閉めて廊下に出て待ってみたが、別に待つ必要も無いことに気づいたので勝手にあちこちを見て回ることにした。 G・Eを出現させたまま廊下で人とすれ違ってみるがやはり何の反応も無い。 拳を顔の前で寸止めさせても不自然な瞬きさえしない。 やはり…スタンド能力として片付けられないものなのだろうか。 ふと上着の中に何か物体の感触があることに気づく。 そうだ、携帯電話を持っていたんだった。 その方面に仕事を持つファミリー員から送られた、試作機ではあるがGPSによる位置情報確認も出来る代物だ。 最近公的利用に向けた衛星を使ったサービスの実用化が進められているという話。 そのテスターとして作られたこの携帯ならば、今いる場所がどこなのか容易に分かるはずだ。 「…おかしいな、地図のどこにも表示されないぞ…?」 ひょっとしたら電波が不安定なのかもしれない。 中庭に出てみれば少しはマシになるか? ここに来て幾度と聞いた使い魔、魔法、貴族といったふざけた単語。 そのせいでスタンドとスタンド使いの概念を他所へ一時保管して置かざるを得なかった僕の頭。 多数生まれたあらゆる疑問は中庭に出て一瞬で吹き飛んだ。 ようやく上り始めた太陽と空に淡く残る月。 この目は異常を来たしていない筈だが月は確かに二つに見える。 携帯の画面にはやはり自分の現在地は表示されていない。 ともすれば。 僕は、紛れもなく異世界に迷い込んだ訳だ。 使い魔、魔法、貴族。 その言葉は新興宗教故に拾ってきた言葉ではない。 この“世界”に在るべくしてある言葉だったのだ。 「何を空なんて見上げているのよ。珍しいものでも無いでしょうに。」 いつのまにか傍にルイズが到着していた。 ───── ────────── ──────────────────── 「ふ~ん。月が一つで、貴族と平民という概念が無ければ魔法さえ存在しない世界、ね… 面白い作り話ね。小説にすればどこかの偏屈な人間なら買っていってくれるんじゃない?」 まぁ想像通りの返答か。いや仕方ないさ、逆に彼女が一人で僕の世界に迷い込んでしまったとしたら、 誰も彼女の言う話など本気にする訳が無い。 「大体ね。あなた、あんな凄い魔法が使えるじゃない。何故隠そうとするのか理解できないけど。 でもあなたの世界には魔法なんて存在しないなんて言っておきながらいきなり矛盾してるじゃない。」 ここでルイズにスタンドの詳細を教えた方がいいのだろうか。 いや、ここが異世界であるとしても敵がいないという訳ではない。 スタンド使いだけが脅威ではない。使い魔と呼ばれるモンスター達を見れば分かる。 そしてスタンド能力を魔法と呼ばれた、ということはスタンド能力に近い何か、がこの世界にはある。 そう考えればここは黙っていた方がいいだろう。 「それにしてもさっきの魔法、一体どの系統に属するのかしら。 召喚……とはまた違った感じよね。物質自体が変化してたんだから。それにしても謎よね…」 「そんなことよりも。何故僕は床の上で食事しなければならないのです?」 「あなたは貴族じゃないから。 魔法が使える=貴族って訳じゃないし、それに自分でもそう言っていたでしょう? 平民が貴族と一緒に椅子に座って食事するなんてあり得ないことよ。 あなたは私の使い魔だから特別に床の上で食べさせてあげてるの。それが嫌なら──」 指差す方向は中庭。見れば使い魔達が揃って餌を食べている。 僕はアレと同類、ッて訳ね…… 「はぁ…大体、使い魔の能力の凄さは主人の能力の凄さってことの証明になるのに…… なんで隠したがるのかしら…ブツブツ…… むしろ無理やりにでもさっさと披露しちゃうのがいいわね…ブツブツ……」 となんだか厄介な事を言い出したが、ここは無視しておこう。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/992.html
トリステイン魔法学院、学院長室。 この部屋の主であるオールド・オスマンは、戻った4人の報告を聞いていた。 もっとも、報告をしていたのは専らルイズであった。 オスマン氏は、キュルケとタバサにも状況報告を求めたのだが、 フーケとの戦いで疲労が限界に達したのか、2人の返答は要領を得ない。 キュルケは暇さえあればチラチラとルイズとDIOを見ているし、 タバサは俯いて黙ったままだ。 オスマンは、ルイズの報告を鵜呑みにするしかなかった。 「ほほぅ。 では、『破壊の杖』は取り戻したが、 『土くれのフーケ』は取り逃がしてしまったと…… そう申すのじゃな、ミス・ヴァリエール?」 泣く子も黙るオスマンが、偽証を許さぬ鋭い視線をルイズに向けるが、 ルイズは堂々と胸を張り、ハキハキと嘘八百を並べ立ててみせた。 どうせ確認する方法など、無いのだから。 「はい。 そしてロングビル……つまりフーケがわざわざこのような遠回しな罠を仕掛けたのは ……これはフーケ自らが言ったことですが…… どうやら『破壊の杖』を私達に使用させ、 使い方を知るためだったようです。 私もそれで間違いないと思います」 「お主個人の感想など無用じゃ」 「その通りであります。 お許しを」 ルイズはビシッとあらたまった。 オスマンは顎髭を撫で回すと、深いため息をついた。 年相応の、そして、深い苦悩が混じったため息であった。 「ミス・ロングビルがか……そうか…………そうじゃったか……」 裏切りなど日常茶飯事だろうに、 オスマンは珍しく辛そうな表情を浮かべた。 しかし、それも一瞬のこと。 すぐに鋼鉄の仮面がオスマンを包み込み、あたりに威圧感をばらまき始める。 その空気に当てられて、キュルケとタバサもその場にあらたまった。 「さて、諸君。 よくぞ『破壊の杖』を取り戻した」 ルイズが礼をし、それに続く形でキュルケとタバサが、ぎこちない礼をした。 DIOは壁にもたれかかって、本を読んでいる。 「『破壊の杖』は、無事に宝物庫に収まった。 これで我が学院の体裁は、一応保たれたことになる。 一件落着とまではいかんが、後は我々の……いや、ワシの仕事じゃ。 諸君はゆるりと休むがよい」 後始末をすると言うオスマンの言葉に、コルベールの肩が少し震えたような気がした。 おそらくは、隠蔽のためにクビを飛ばされることになるだろう教師達の何人かのことでも考えているのだろう。 「フーケを取り逃がしてしまったからのぅ、 『シュヴァリエ』の爵位を申請するとまではいかんが、 王宮には報告をしておくぞい。 目をかけてくれることじゃろうて」 ルイズ達は、特に反応を返さなかった。 オスマン自身もどうでもよいのか、少々投げやりだった。 「ふむ、そういえば、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。 予定通り行うこととなった。 今日の主役は君たちという事になっておる。 せいぜい着飾るが良いぞ」 ふぉっふぉっと笑うオスマンに、3人は礼をするとドアに向かった。 ルイズはDIOをチラッと見つめて、立ち止まった。 「先に行くといい」 DIOは、本に目を落としたままルイズに言った。 ルイズは一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐにどうでも良くなったのか、 さっさと部屋を出ていってしまった。 ルイズが出ていった後、DIOは本を閉じ、オスマンに向き直った。 「用がある……とでも言いたげじゃのう。 残念ながら、お主には報酬はだせん。 貴族ではないからのう。 代わりにといっては何じゃが……二、三の質問には答えてやろう」 オスマンは、DIOが何故この場に残ったのか、おおまかに把握しているようであった。 引き出しからパイプを取り出し、 煙をふかし始めたオスマンに、DIOは質問をした。 「『破壊の杖』……あれは、 私が元いた世界の人間達が作り出した武器だ。 なぜここにある?」 「ほっ、『元いた世界』とな?」 オスマンの目が光った。しかし、オスマンの言葉をDIOは無視した。 質問をしているのは、DIOなのだ。 「あれは何故……どうやってここにやってきた」 取り付く島もないDIOに、オスマンはつまらなさそうなため息をついた。 それと一緒に煙が吐き出され、DIOにかかる。 「あれを私にくれたのは、ワシの命の恩人じゃ」 オスマンは己の過去をあまり話さない。 しかし、今回ばかりは話さないことにはどうにもならない。 仕方なしといったふうに、オスマンは三十年前の過去を話した。 ワイバーンに襲われたこと。 突如あらわれた異様な身なりの男が、『破壊の杖』で助けてくれたこと。 看護をしたが、死んでしまったという事。 話を全部聞き終えた後、 DIOは一つだけ気になる事を尋ねた。 「その男の遺体は、墓の下にあるのかな?」 DIOの奇妙な質問に、オスマンは怪訝な表情を浮かべたが、答えてはいけないというわけではない。 オスマンは答えた。 「墓はこの学院内にある。 しかし、遺体はもう存在しておらんよ」 それを聞いて、DIOは顔をしかめた。 「ない……だと?」 「彼の遺言での。 骨も残さずに焼き尽くしたのじゃ。 ワシが責任を持って執り行った」 元の世界に戻る手掛かりが一つ消えたことに、DIOは舌打ちをした。 骨さえ残っていれば、瞬く間に屍生人として再生させて、 尋問をすることも出来ただろうに。 しかしすぐに気を取り直し、 DIOは己の左手に刻まれているルーンをオスマンに見せた。 「では次に、このルーンだ……。 このルーンが光ると、私の傷は瞬く間に塞がり、『馴染んだ』。 今まで一度しか光っていないが……何故だかわかるか?」 オスマンは、話すべきかどうかしばし悩んだ後、口を開いた。 「お主の言う『馴染む』が、どういう意味なのかは分かりかねるがの……。 まぁよい。 それは、ガンダールヴの印じゃ。 お主達が出かけておった間に、コルベールが文献を見つけだした。 伝説の使い魔の印じゃ。」 「伝説?」 「そうじゃ。 伝説によるとガンダールヴは、ありとあらゆる『武器』を使いこなしたそうじゃ」 DIOは首をかしげた。 「……なんとも言いがたいな。 この世界にきて、今まで私が触れてきた武器は、 どれもこれも使い方を知っているものだらけだ。 全く使い方のわからない武器があれば、確かめようもあるが…… この世界の文明レベルでは、無理だろうな」 話はこれまでと、DIOは踵を返した。 部屋の出口まで進み、扉を開けたところで、DIOは思い出したように振り返った。 「あぁ、ところで、鏡の調子はどうかな?」 オスマンがピクリと反応したが、すぐに嘘にまみれた笑顔を向けた。 「おぉ、どこかの誰かさんのおかげさんでの。 しばらく再起不能じゃ。 まったく困った事じゃて」 ホッホッホッと屈託ない(ように思える)笑い声を上げるオスマンを、 DIOはしばらく眺めていた。 が、やがて興味がなくなったのかパタンと、扉を閉めた。 DIOがいなくなった後、オスマンはおもむろにパイプを口から放し、 地面に叩きつけた。 そして、忌々しげにグジグジと踏みにじった。 木屑になるまで踏みつけていても、 オスマンは無表情のままだった。 ――――――――― アルヴィーズの食堂の上の階。 そこが、『フリッグの舞踏会』の会場だった。 着飾った生徒や教師達が、 豪華な料理盛られたテーブルの周りで歓談している。 だが、この舞踏会は、 いつもと少々様子が異なっていた。 土くれのフーケが、学院に現れたという話は、 既に学院中に広まっていた。 そして、3人のメイジによって撃退されたという話も。 だから、今回の舞踏会はどちらかというと、 祝勝会という色合いの強いものであった。 しかし、その主賓……つまりはフーケを撃退したメイジ達の顔は、 ちっとも晴れやかではない。 黒いパーティードレスを着たタバサは、ただ黙々とテーブルの上の料理と格闘している。 だが、タバサが無口なのはいつものことなので、 誰もそんなに気にはとめなかった。 問題はキュルケであった。 ゲルマニア出身の彼女は、 引っ込み思案な傾向のあるトリステインの女性と比べて、 情熱に溢れた積極的な性格をしている。 ダンスパーティーともなれば、 それこそ取っ替え引っ替えで男達と友好を深めたりするはずなのだが…… それをしない。 憂鬱な顔をして壁にもたれ掛かり、 ただぼんやりとパーティーの様子を眺めているだけだ。 幾人もの魅力的な男達がダンスに誘っても、 彼女はやんわりと断るばかり。 中には、いつも明るいはずの彼女が見せる、 物憂げな表情に心打たれて、などという輩もいたが、 彼女はそれも断った。 男達はがっかりしたものだが、 やがては各々別のパートナーを見つけ、それぞれにパーティーを満喫し始めた。 そこに、ホールの壮麗な扉が開いてルイズが姿を現した。 門に控えた呼び出しの衛士がルイズの到着を告げると、 その場にいた貴族達の視線が彼女に集中する。 そして、彼女の美しさに息をのんだ。 バレッタにまとめた桃色の髪。 肘までの白い手袋。 ホワイトのパーティードレス。 どれもこれもが、彼女の高貴さを輝かせている。 その姿と美貌に、ダンスを申し込む男達が列をなすかと思われたが、 不思議なことにそうはならなかった。 誰も彼もが、遠巻きに彼女を眺めるだけ。 彼女を中心にして、まるでドーナッツのような現象になっていた。 それは、彼女の纏う雰囲気のせいとでもいうのだろうか。 貴族達がダンスを申し込むにしても、彼女は高貴にすぎた。 いや、高貴というよりも、何者をも近づけない絶対的な何か…… それこそ王が身に纏うようなオーラが、 まだ弱いながらもしっかりと彼女から振りまかれている。 そのオーラのせいで、誰も近づけないでいたのだ。 ルイズ自身も、他の男には興味がないのかサクサクと歩を進めて、 バルコニーへと姿を消した。 突如現れた一輪の華に、一時は会場も静まり返ったが、 やがて元の喧噪を取り戻し始めていった。 バルコニーに姿を現したルイズは、その贅沢っぷりに頭を押さえた。 バルコニーに急遽設置されたテーブルの上には、 パーティー会場のものもかくやというほど豪華な料理が並べられ、 DIOが1人でそれを楽しんでいる。 給仕をしているのはシエスタのみだが、 それで十分事足りているようだった。 テーブルにはイスが2脚あった。 ルイズの為に、予め用意されていたのだろう。 当たり前のように、ルイズはそこに座った。 「お楽しみみたいね」 「……君は踊らないのか?」 ルイズはふっと笑った。 「相手がいないのよ」 「そうか」 それっきり2人は黙り込み、しばらく料理に舌鼓を打つ。 やがて、ゆっくりとルイズが沈黙を破った。 「ねぇ、帰りたい? 元いた世界へ」 つまり、ルイズはDIOが異世界から来た者であると認めたのだ。 「帰りたい? ……そうだな、帰らなければならないな。 やり残したことがある」「例えば?」 DIOは珍しくも苦々しげな表情を浮かべた。 「私の運命という路上から、取り除かねばならない汚点がある」 「へえ」 「だが、今はまだ帰るわけにはいかないな」 ルイズは首をかしげた。 「この世界を私のものにしてからでも、 帰るのは遅くない」 ルイズは溜息をついた。 このDIO、やはり冗談を言っているのか、 真面目なのか、判断に困る。 取り敢えずさらっと受け流すことにして、 ルイズはワインを飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。 DIOに歩み寄り、すっと手を差し出す。 「えぇっと、まぁ、今回は、 あんたのお陰で事をうまく運ぶことができたわ。 そこの所は……認めてあげる」 それを受けてDIOも席を立つ。 「だから、その、踊ってあげてもよろしくてよ?」 DIOは静かに笑って、御主人様の求めに答えてやることにした。 素直でないルイズは、男性の方から誘うという形を取らねば、 すぐにヘソを曲げてしまうことを、DIOは朧気ながら理解していた。 ルイズの手に接吻をして、ダンスを申し込む。 「私と一曲踊っていただけますか、ミ・レイディ?」 ルイズは微笑んでDIOの手を取った。 2人は並んで、ホールへと消えていった。 ……ちなみに、このときDIOはまだ上半身裸で、 オーダーメイドの服が届くのは、舞踏会が終わってからしばらくあとの事になる。 ―――――――――― 第一部、『ゼロのルイズ』終了!!! 第二部、『ファントム・アルビオン』へと続く!! 47へ 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/273.html
康一達がマリコルヌに地獄を見せていた同時刻、 本塔の最上階にある学院長室で、ちょっとした騒ぎが起ころうとしていた。 トリステイン魔法学院の学院長を務めるオスマン氏が、白いひげと髪を揺らして、退屈そうにしていた。 「暇じゃのう……」 オスマンは、机に手をつきながら立ち上がり、理知的な顔立ちが凛々しい、ミス・ロングビルに近づいた。 椅子に座ったロングビルの後ろに立つと、重々しく目をつむった。 「こう平和な日々が続くとな、時間の過ごし方というものが……」 「オールド・オスマン」 オスマンが、年季の入ったしわをよせながら重々しく語ろうとするが、ロングビルによって遮られる。 「なんじゃ?」 「暇だからといって、わたくしのお尻を撫でるのはやめてください」 オスマンは口を半開きにして、耳をロングビルに向けながら聞く。 「え? ポッポ ポッポ ハト ポッポ?」 「都合が悪くなると、ボケた振りをするのもやめてください」 どこまでも冷静な声でロングビルが言った。 オスマンは深くため息をついた。そして真剣な顔をしながら語る。 「そういえば、昨日召喚されたという平民の少年はどうしてるんじゃろうな? 後で様子でも……」 「少なくとも、私のスカートの中にはいませんので、机の下にネズミを忍ばせるのはやめてください」 ロングビルの机の下から、小さなハツカネズミが現れた。 オスマンの足を上り、肩にちょこんと乗っかって、首をかしげる。 「気を許せる友達はお前だけじゃ。モートソグニル」 そう言って、ネズミの前にナッツを振る。 「ほしいか? カリカリの欲しいじゃろう? なら報告をするんじゃ」 ネズミは、ちゅうちゅうと鳴きながら、オスマンに耳打ちした。 「そうかそうか、白か。純白か。よーし、よしよしよしよしよしよしよしよしよしよし! よく観察してきたのう、モートソグニル! 褒美をやろう。いくつ欲しいんじゃ? 二個か?」 ネズミは、顔を横に振って、ちゅーうちゅうちゅうちゅう! と鳴いた。 「三個欲しいのか? カリカリのを三個……。いやしんぼじゃのう! よし、三個くれてやろう!」 ロングビルが眉をぴくぴくとさせながら、その光景を見ていた。 「オールド・オスマン」 オスマンは、ネズミに向かってナッツを放り投げながら聞く。 「なんじゃね?」 「今度やったら、王室に報告します」 その言葉を無視するかのように、オスマンはネズミと戯れていた。 ネズミが手を使わずに、全てのナッツを口でキャッチして、カリコリさせながらナッツを食べている。 「よォ~しよしよしよしよしよしよしよしよしよし! とってもいい子じゃぞ、モートソグニル!」 うれしそうにネズミを撫で回すオスマン。 その光景を見ていたロングビルは、オスマンの背後に無言の圧力をかける。 「下着を覗かれたぐらいでカッカしなさんな! そんな風に怒ると、余計にしわが増えるぞ。 これ以上、婚期は逃したくないじゃろう。 ぁ~~~~、若返るのう~~~、何というスベスベの……」 オスマンが、ロングビルのお尻を堂々と撫で回し始めた。 ロングビルは立ち上がり、無言で上司の顔面を手の甲の部分で引っぱたいた。 バギィッ! 小気味良い音を立て、オスマンは地面に倒れる。 追撃といわんばかりに、ドガドガドガと、オスマンの体中に何度も蹴りを入れ続ける。 「ごめん。やめて。痛い。もうしない。ほんとに。許して!」 「このッ! このッ! このエロじじぃがッ! 思い知れッ!!」 普段の冷静なロングビルとは思えない台詞を言い放ちながら、尚もオスマンに蹴りを入れる。 「あだッ! うげッ! ごげッ! と、年寄りを、きみ。ちょま、まって。折れちゃう! はぐッ!」 「私の清らかな部分を! よくも汚れた指先で! いやらしく撫で回してくれたわねッ!」 ロングビルは完全にプッツンしているようで、目を尋常じゃないほど見開いている。 迂闊なことをしたと後悔しながら、意識が遠くへいきそうになるオスマン。 オスマンが失禁寸前になっていたその時、 ドアがガタン! 勢いよくあけられ、中堅教師のミスタ・コルベールが飛び込んできた。 「オールド・オスマン!!」 「……」 返事がない。 ロングビルは何事も無かったように机に座っているが、オスマンはピクピクと体を痙攣させていた。 いつものことなので、特に気にも留めずにコルベールは話を進める。 「たた、大変です! ここ、これを見てください!」 『炎蛇のコルベール』の二つ名を持つコルベールは、 白目をむいて気絶しているオスマンを燃やして、強制的に意識を覚醒させる。 そして、図書館にあった書物をオスマンに手渡した。 「これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか」 オスマンは何事も無かったかのように、書物をマジマジと見つめている。 「これが一体どうしたと言うんじゃ。 こんな古臭い文献など漁ってる暇があったら、貴族から学費を徴収するうまい手を考えるんじゃよ。ミスタ……、なんだっけ?」 オスマンは首を傾げた。 「コルベールです! お忘れですか!」 「そうそう。そんな名前だったな。それで、この書物がどうかしたのかね? コルベット君」 「コル 『ベール』ですッ! わざとらしく間違えないで下さい!!」 だめだコイツ……、と思いながら頭を抱えるコルベール。 「とにかく、これを見て下さい!」 コルベールは、康一の手に現れたルーンのスケッチを手渡した。 それを見た瞬間、オスマンの表情が変わった。目が光って、厳しい色になった。 「ミス・ロングビル。席を外しなさい」 ミス・ロングビルは立ち上がり、部屋を出て行った。 彼女の退室を見届け、オスマンは口を開いた。 「詳しく説明するんじゃ、ミスタ・コルベール」 ルイズがめちゃくちゃにした教室の片付けが終わったは、昼休みの前だった。 罰として、魔法を使って修理することが禁じられたため、時間が掛かったのである。 といっても、片づけをしたのは殆ど康一で、ルイズは面倒くさそうな顔で机の煤を拭いただけだった。 新しい窓ガラスや重い机を運ばされた康一はくたくたになりながら、食堂へ向かうルイズの後ろを歩いてる。 「……」 「……」 二人とも無言であった。 ルイズは不機嫌そうにしており、康一は話す気力もないと言った感じで肩を落としてる。 だらだらと歩く康一に我慢できなくなったルイズが、康一に向かって怒鳴りつける。 「ちょっと! 私の使い魔らしく、もっとシャキっとなさい、シャキっと!」 康一は、何も答えずにノロノロと歩いている。 「人の話を聞いてんの? この犬!」 犬と言われた康一は、ムッとしながらも何とか堪え、ルイズの所までスタスタと歩いた。 ルイズの肩に手をポンと置き、散々コキ使われた恨みを籠めながら笑顔で返事をする。 「僕もシャキっとしたいんだけど、何せもう体力が 『ゼロ』 だからなぁ~」 康一は、『ゼロ』の部分だけ声を張った。 ルイズの眉毛がぴくぴくと動き、歯はギリギリと不協和音を奏でていた。 「いや、本当は僕も急ぎたいけど、体力が『ゼロ』だし、気力も『ゼロ』だからさぁ~!」 「ふーん、へぇ~、そーなの。 体力が無いなら仕方ないわね~」 ルイズは笑顔で、しかし、万力の力を込めるように、拳を握った。 それを見た康一は、ヤバイと思って、後ずさりしながら離れる。 「さ、さあ~てッ! 早いとこ食堂に行こ……」 ルイズの右ストレートが、康一の左頬にクリーンヒットする。 バギィッ! という音が、食堂へと続く廊下に響いた。 康一は、明日の食事も全て抜きとされてしまった。 殴られた左頬を押さえながら、康一はシエスタに案内された厨房へ向かっていた。 口の中は鉄の味で充満しており、虫歯になった時のように、ジンジンと痛みが走っている。 「あら、コーイチさん」 厨房の前に到着すると、シエスタが大きな銀のトレイで、何枚もの皿を運んでいる最中だった。 康一は、シエスタのところまで駆け寄り、一礼をした。 「どうも、シエスタさん。朝はお世話になりました。運ぶの手伝いますよ」 そう言って、シエスタの持っていたトレイを持ち上げる。 しかし、片づけで大幅に体力を失っていたこともあり、持ち上げた体勢のままプルプルと震えて動けなくなる。 「あ、あの……無理はなさらないほうが……」 シエスタが康一を心配そうに見つめる。 「だ、だ、だ、大丈夫……です。あ、いや……。やっぱまずいかも……」 シエスタは、康一の両手に重なるように手を置き、トレイを持ち上げるのを手伝う。 「す、すいません……」 シエスタの手に触れていることも相まって、康一は顔を真っ赤にして俯いた。 「一緒に運びましょう。二人で運べば、お互い楽に運べますから」 そう言って、可愛らしい笑顔でニコリと微笑むシエスタ。 康一は十分の一でもいいから、シエスタの優しさをルイズに分けてほしいと思った。 皿が乗っているトレイを、厨房のテーブルに乗せる。 トレイから皿を下ろしていると、料理を作っていたコックが皿を何枚か要求した。 康一が皿を持っていき、コックが料理を盛って、再び康一に手渡す。 シエスタが康一から料理を受け取り、何枚か大きな銀のトレイに乗せて食堂へと持っていった。 数分後、メイン料理の全てを運び終えたメイドたちは、デザートの時間になるまで昼食を取っていた。 「うーん、やっぱおいしいッ!」 康一も、シエスタを含むメイドたちと賄い料理を食べていた。 今日の賄いはシチューらしく、康一の腹を満たすには充分すぎる程の量が入っている。 シエスタは、その様子をクスクスと笑いながら見ている。 「……? どうしたの?」 「コーイチさんって、本当においしそうに食べてくれますね」 「そりゃあ、本当においしいんですから、自然とそうなりますよぉ~!」 そう言って、満面の笑みでシチューを頬張る康一。 ルイズに殴られた傷なんて、気にならないくらいであった。 「この後、デザートを運ぶんですよね? 僕も手伝いますよ」 「そんな、そこまでしてもらうわけには……」 既に厨房の仕事を手伝って貰っており、これ以上手伝ってもらっては申し訳ない、とシエスタは思った。 「いえ、朝もご馳走になりましたから、是非やらせて下さい!」 「……わかりました。なら、手伝って下さいな」 康一の素直な瞳を見て、断っては逆に失礼だと思ったシエスタは、デザート運びを手伝ってもらうことにした。 大きく頷き、康一は再びシチューを食べ始めた。 大きな銀のトレイに、デザートのケーキが並んでいる。 康一がトレイを持ち、シエスタがはさみでケーキをつまみ、一つずつ貴族たちに配っていく。 「なあ、ギーシュ! お前、今は誰と付き合ってるんだよ!」 声のした方を見ると、金色の巻き髪にフリルのついたシャツを着た、キザなメイジがいた。 薔薇をシャツのポケットに挿している。どうやら友人らしき人物と話をしているようだった。 「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」 「つきあう? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 あの人、自分を薔薇に例えるなんて、よっぽど自分の容姿に自信があるんだなぁ~。 などと思いながら次の席までトレイを運ぶ。 特に興味もなかった康一は、すぐに視線を元に戻した。 次の席にケーキを配ろうと康一が移動した時、シエスタが何かに気づき、はさみをトレイに置いた。 「すみません、ちょっと待ってていただけますか?」 「あ、はい」 そう言って、シエスタはさっきのキザな男の元に駆け寄った。 知り合いかな、と思いながら康一が見ていると、何やら少しモメているようだった。 シエスタは困った顔をして、オロオロとしていた。 何かあったのかと思い、トレイをテーブルに乗せて康一がシエスタに声をかける。 「どうしたんですか?」 「あ、それが……」 その時、一人の女性がキザ男に向かってコツコツと歩いてきた。 「ギーシュさま……。 やはりミス・モンモランシーと……」 「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは……」 ギーシュと呼ばれた男がそう言いかけた時、パァンッ! という音が、食堂に響いた。 ケティと呼ばれた女性が、ギーシュの頬を思いっきり引っ叩いていた。 「その香水が貴方のポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」 ギーシュは頬をさすった。 康一が何事かと思っていると、康一を押しのけて、また一人の女がギーシュの前に現われた。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ……」 「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?」 モンモランシーは、テーブルに置かれたワインのビンを掴むと、中身をどぼどぼとギーシュの頭の上からかけ、 「うそつき!」 と怒鳴って去っていった。 しばし、なんともいえない沈黙が流れた。 ギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと顔を拭いた。 そして、首を振りながら芝居がかった仕草で言った。 「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 康一は、この人二股かけてたのか、まあ自業自得かな。などと思っていた。 あんまり惨めな姿を見ていると可哀想だったので、康一はすぐにその場を去ろうとする。 「……メイド風情がやってくれたね。君が軽率に、香水のビンなんかを拾い上げたおかげで、 二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだい?」 シエスタは、体を震わせながら、半泣きで土下座をする。 その光景を見た康一は、ピタリと足を止め、ギーシュの元へと引き返した。 「も、申し訳ございません!」 「謝って済む問題じゃない。キミには責任を取ってもらうとしよう。 ここのメイドをやめて、今すぐトリステインから出て行ってくれたまえ」 そう言って、ギーシュはシエスタの元から去ろうとする。 それを聞いていた康一が怒りをあらわにしながら言った。 「ちょっと! 何もそこまでする必要はないじゃないですか!」 「ん? 君は確か……ゼロのルイズの使い魔だったか。 使い魔如きが、軽々しく僕に話しかけないでくれたまえ」 使い魔如きと言われカチンとするが、 それよりも頭に来たのは、ギーシュが自分の責任をシエスタに押し付けてることだった。 「話を聞いていると、悪いのは明らかにキミの方だ! 大体、二股をかけてるのが悪いんじゃあないか。自業自得だよ!」 ギーシュの友人たちが、どっと笑った。 「確かにその通りだ! ギーシュ、お前が悪い!」 「そうだ、お前が悪い!」 それを聞いていた、周りのギャラリーたちも、一斉にギーシュを攻め立てた。 「責任転嫁するなんて、かっこ悪いぞ!」 「この極悪人め!」 「キミが真の邪悪だ」 周りから好き放題言われるギーシュ。 プルプルと振るえ、顔を怒りの形相へと変えた。 「よくも……僕にこんな恥をかかせてくれたな……」 歯をギリギリとならし、康一をキッと睨みつけている。 康一も負けじと、ギーシュを真っ直ぐ見る。 「そうやって、なんでもかんでも人のせいにするのは止めた方がいいよ。 全てキミが悪いじゃあないか。周りの皆だって、そう言ってるよ」 うんうん、と頷くギーシュの友人とギャラリー達。 「……どうやらキミは貴族に対する礼を知らないようだな。 よかろう、ヴェストリの広場で待っている。ケーキを配り終えたら来たまえ」 くるりと体を翻し、ギーシュと、その友人たちが去って行った。 「コ、コーイチさん! 逃げて下さい! 殺されちゃいます!」 「シエスタさん」 「悪いのは私なんです! だから、行くのは絶対にやめて下さい!」 「シエスタさん、聞いて下さい」 康一は地面に座り込んでいたシエスタの手を取って、立たせた。 その姿は、体の小さな康一とは思えないほど、凛々しかった。 ドキリと胸をならし、シエスタは思わず視線をそらす。 「僕が逃げるってことはつまり、シエスタさんの名誉を汚すことになります。 シエスタさんは何も悪くないんです。だから、自分が悪いなんて言うのはやめて下さい」 康一は、真っ直ぐにシエスタを見ながら言葉を続ける。 「それに、僕は彼に解らせてあげなければならないんだ。『お前が悪いんだ』ってね。 大丈夫。僕は一度殺されそうになったことがあるからね。あんな奴、ちっとも怖くなんかないよ」 そう言って、康一はテーブルに置いたトレイを持った。 「さ、それより、早くケーキを配りましょう。皆さん、お待たせしてすみません」 康一達は、残りのケーキを貴族達に配っていった。 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1055.html
「シエスタさんが変態貴族のモット伯の所へ奉公することになった。」 「・・・で?」 「助けに行ってくるので今日は休みます。」 「はぁ!?何いってんの!?使い魔に休息なんて無いわよ!!」 「うるせぇ!!労働基準法違反じゃあないか!!」 「だいたい助けるって何するつもりよ!!」 「とにかく今日中には帰ってくるんで!じゃ!」 「あ、こら!待ちなさい!!」 新ゼロの変態 間奏曲(インタールード) さて、こういう場合彼ならどういう行動を取るだろうか? モット伯の所へ殴り込む?彼の性格上、これはないだろう。 しかもモット伯は多少は名の知れたメイジである。 ギーシュなんかとは格が違う。 やはり、口先八丁で丸め込むつもりだろう。こっそり忍び込んで連れ出すつもりかも知れない。 いずれにしろ・・・あまりいい結果は想像できない。 下手したら逮捕される危険性だってある。 そんなことを考えて、ルイズは深いため息をついた。 しかし、当の本人は夕方、シエスタを連れて帰ってきた。 「・・・あんた、何したの?」 「何って・・・シエスタさんを返してもらうようお願いしただけさぁん♪」 「・・・やけに機嫌がいいわね。じゃあ、仕事いつもより多くやっても大丈夫ね。」 「おいおい、そいつはひどいな!HAHAHAHA!」 ルイズは、ノリノリで掃除をするメローネを見て気分が悪くなった。 ルイズは知らない。 メローネがこう呟いていたことを。 「くっくぅ~ん。新しいカモ見つけちゃったぜ。しかも貴族様だぜ。くっくぅ~ん。」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2266.html
4話 朝食を終えたルイズは教室に入った。 教室ではすでに多くの生徒が着席していて、その脇には各々の使い魔を侍らせている。 だが、今ルイズの後ろにホワイトスネイクはいない。 きっと朝食のことを腹にすえかねてるんだわ、と考えたルイズは自分の使い魔の名を呼んだ。 「ホワイトスネイク、出てきなさい」 だが出てこない。 聞こえていないわけではない。 ホワイトスネイクは今のところルイズのスタンド「のようなもの」なので、 ルイズに見えたり聞こえたりしたものはホワイトスネイクにも見えているし、聞こえている。 これはプッチ神父の時と同様だ。 つまり何が言いたいかというと……無視したのである。 「ホワイトスネイク、出てきなさい!」 口調を強めて、再び使い魔の名を呼ぶルイズ。 だがホワイトスネイクは出てこない。 その様子を見た教室の生徒たちは、最初はきょとんとしていたものの、次第にニヤニヤし始めた。 「『ゼロ』のやつ、早速使い魔に見放されちまったのかぁ~?」 「まあトロールみたいにバカな亜人じゃなくて、ちゃんと言葉が話せる亜人だったからなぁ。 ルイズが『ゼロ』だってこと、すぐに分かったのかも」 「にしても、召喚されたのが昨日の午後だろ? 1日と立たずに使い魔に見限られるってのは、さすが『ゼロ』のルイズというか……」 その陰口はルイズにも届いていた。 恥ずかしさでルイズの顔が赤くなる。 「ホワイトスネイク!」 三度目の呼びかけは教室中に響くような声だった。 一瞬、教室がシンとなる。 ホワイトスネイクが現れたのは、そのときだった。 ルイズの背後の空中に、浮かびあがるように。 ――――――――――――首だけで。 もっとも首だけで出てきたのにはちゃんとした意味がある。 「お前なんかのために自分の全身をいつも出しとくのはもったいねー」というホワイトスネイクなりの意思表示であり、 朝食で受けた屈辱の「ほんの一部」を返すためでもある。 ルイズに何度呼ばれても出てこなかったのも、同じ理由だ。 そして―― 「呼ンダカ、ルイズ?」 さも今気付いたかのような口調でホワイトスネイクが言った瞬間―― ドンドンドンドンッ! 4本のツララがホワイトスネイクに襲い掛かったッ! 「何ダトォーーーッ!!」 突然の攻撃にホワイトスネイクは驚いた。 だが20年に渡って続けた殺し合いで培われたカンは、ホワイトスネイクを瞬時にこの事態に対応させたッ! 間髪入れずに全身を発現、そして向かってくるツララを全て手刀で叩き落とすッ! ツララが無数の氷の破片になって床に散らばったとき、ツララを撃ち込んだ犯人が発覚した。 犯人は小柄なメガネの少女。 少女の髪の色は青、手には身の丈より大きい杖を携え、荒い息でそれをホワイトスネイクに向けていた。 「ちょ、ちょっとタバサ! あんた一体何して……」 キュルケが大声を上げる。 無論、攻撃されたホワイトスネイクも黙ってはいない。 「小娘……オ前、何ノ」 「ちょっとあんた! わたしの使い魔にいきなり攻撃するなんてどういうことよ!」 ホワイトスネイクの声を遮り、凄まじい剣幕でルイズが怒鳴る。 「それに『ウィンディ・アイシクル』みたいな強力な魔法を使うなんて! ホワイトスネイクを殺す気だったの!?」 「……ごめんなさい。勘違いした」 タバサと呼ばれた少女は額に冷や汗を浮かばせながら、謝罪した。 「勘違いって何よ勘違いって! 取り返しのつかなくなるところだったじゃないのよ!」 「……ごめんなさい」 カンカンになって起るルイズと、弁解もなくただただ謝るするタバサ。 これでは全く事態が進展しそうにない。 周りの生徒もどうしてよいか分からず、互いに顔を見合わせるだけだった。 そしてホワイトスネイクは、被害者のはずの自分が蚊帳の外にいることに気づいた。 気づいて口を開いたその時、ガラリと扉が開いて教師が入ってきた。 「皆さん、ご機嫌よ……あら、どうしました?」 きょとんとした顔で教師がルイズに問いかける。 「わたしの使い魔が攻撃され」 「いえ、何でもないです!」 ルイズの言葉を遮り、キュルケが大きな声で教師に答える。 「ちょっとキュルケ! その子の肩を持つつもり!?」 ルイズが強い口調で言うと、キュルケは席に座ったままのタバサを捕まえると、 彼女を引きずるようにしてルイズのところまで素早く連れて来た。 「いいから、ここは無かったことにして。ほら、タバサも謝ってるじゃない?」 「でも、せめて理由ぐらい聞かせてくれなきゃ納得できないわよ」 「……お化け」 「「……は?」」 「彼が……お化けに見えた。く、首だけ、だったから……」 「それで……攻撃したの?」 タバサはこくりとうなずいた。 つまりお化けが嫌いなタバサが、 ルイズの後ろに「首だけで」出てきたホワイトスネイクをお化けと勘違いし、攻撃した……と。 ルイズとキュルケは、思わず脱力してしまった。 「ごめんなさい」 そう言ってタバサはぺこりと頭を下げた。 「だったらそうと言ってくれればいいのに……」 キュルケはため息をつきながら席に戻った。 「……次からは勘弁してよ」 ルイズはそれだけ言うと、さっさと歩いて行って席に着いてしまった。 後にはタバサと、怒っていいのか、感心していいのか、よく分からない気分のホワイトスネイクが残った。 使い魔(とルイズは思っている)のことを自分のことのように怒ったルイズは評価すべきだが、 自分がそっちのけにされたまま解決されてしまったのは腹立たしかったのだ。 ホワイトスネイクがそんなもやもやした気分でいると、タバサがホワイトスネイクを見上げて言った。 「あなたには、悪い事をした」 「……当タリ前ダ。アト少シ対処ガ遅レテイタラ、タダデハ済マナカッタ」 「でも……できれば首から下を隠すのはもうやめてほしい」 「是非トモソーサセテモラウ。毎回アンナ攻撃デ襲ワレルノハタマラナイカラナ」 「……ありがとう」 「礼ヲ言ワレルヨーナ事デハナイ。小娘ノ自制心ガ信用デキナイカラ、自分デ対策スルダケノ事ナノダカラナ」 ホワイトスネイクは不機嫌全開でそう言うと、フッと姿を消した。 「き、消えた!?」 またもや教室が騒がしくなる。 が、すぐに皆が静まった。 どこからか現れた赤土の粘土で口をふさがれてしまっているのだ。 「いつまで騒いでいるのですか! もう授業を始めますよ!」 教師の言葉を聞いて、生徒達はいそいそと授業の用意を始めた。 タバサもいつのまにか自分の席に戻っていたが、授業の用意はせずに本を黙々と読んでいた。 「さて、授業を始める前にほんの少しだけお話をさせていただきますわね。 このシュヴルーズ、新学期にこうやって皆さんの使い魔を見せていただくのをとても楽しみにしているのです。 今年もみなさんが自分の使い魔の召喚に成功したようで、なによりですわ」 そう言って教室を眺めると、 「ミス・ヴァリエールはとても変わった使い魔を召喚したものですね」 「へ?」 シュヴルーズのとぼけた声を聞いて横を見ると、ホワイトスネイクがいつの間にかルイズの横に座っていた。 「ちょ、ちょっとあんた! いつの間に!」 「ツイサッキダ。ソレヨリ教師ガ何か言ッテルゾ。答エテヤッタラドウダ?」 「え? えー、はい。とても……変わって、ます」 混乱した頭でルイズが答えると、シュヴルーズはにっこり笑った。 「では、授業を始めますよ」 シュブルーズがこほん、と咳払いして杖を振るう。 すると教卓の上に石ころがいくつか転がった。 授業が始まる。 (中々分カリ易イ説明ヲスル教師ダ) 授業を聞きながら、ホワイトスネイクはそんな事を思った。 シュヴルーズの授業は以下の通りである。 魔法には火、風、水、土の4つの系統と、 今は失われた(使えるヤツがいないということだろうか? とホワイトスネイクは思った)虚無を合わせて、 全部で5つの系統があるということ。 そしてシュブルーズが言うには、土の系統は5つの系統の中で最も重要らしい。 その理由として、土の属性が重要な金属を作り出し、加工することが出来ることとか、 大きな石を切り出して建物を建てることが出来るということ、 それに土の系統が農作物の収穫にも関わっているということを挙げた。 ホワイトスネイクにとってはどれもこれも初めて聞くことばかりなので、 熱心にシュブルーズの説明に耳を傾けていた。 スタンドのデザインに耳は無いけど。 そして説明が丁寧な分、他の事を考える余裕も出てくる。 (ダガ手間ヲ考エナイナラ貴金属ヲ手ニ入レルコトモ、加工スルコトモ可能ダ。 建物ヲ建テルコトモ、農作物ノ収穫率ノ向上モ同様ニ。 『暮らしを楽にする』トイウ観点デハ、火ヲ楽ニ起コセルデアロウ火ノ系統ノヨウニ、他ノ系統モ重要ダロウ。 スタンドト同様、各系統ニ優劣ノ関係ハ無イト考エルベキダロウナ) そうこうしているうちに、シュヴルーズが教卓の上の石ころに向かって、 小ぶりな杖を振り上げた。 そして短く何かを呟くと、石ころが輝き始める。 数秒後、光が収まると、ただの石ころは光を反射してキラキラ輝く金属に変わっていた。 「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」 キュルケが身を乗り出して言う。 シュヴルーズはやさしく微笑んで、 「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。 私はただの……」 と、ここでもったいぶった咳払いをして、 「トライアングルですから……」 と言った。 (『トライアングル』? ソレニサッキハ『スクウェアクラス』トカ言ッテタナ。 メイジトシテノレベルヲ表スモノナノカ?) 初めて聞く二つの単語にホワイトスネイクは頭を捻る。 (『トライアングル』……地球デハ『三角形』ノ意味。ソシテ『スクウェア』ハ『四角形』ノ意味。 『3』ト『4』……カ。一体ドレクライ違ウンダ? アノ教師ハ『スクウェアならゴールドを錬金出来る』トカ言ッテイタガ……ヨク分カランナ) 「ねえ」 そんな事を考えていると、ルイズから声がかかった。 「ドウシタ?」 ルイズにだけ聞き取れる程度の声でホワイトスネイクが答える。 「授業、そんなに面白いの?」 「私ニトッテハ真新シイ事バカリダカラナ」 「ふーん……」 「ルイズハ退屈ソーダナ」 「そうよ。知ってることばかりだもの」 「予習シタノカ?」 「自分で調べたのよ。魔法が……いや、なんでもないわ。 とにかく知識だけはたくさんあった方がいいと思ったの」 「ソウカ……ジャア質問サセテモラオウカ。『トライアングル』ト『スクウェア』ハドレダケ違ウンダ?」 「全然違うわよ。トライアングルは属性を3つしか足せないけど、スクウェアは4つも足せるのよ?」 「一ツ違ウダケジャアナイカ」 「全然違うのよ。足せる数は最大で4つ。低い方から順にドット、ライン、トライアングル、スクウェア。 足せる数が多くなればなるほど、より強力な魔法が使えるの。 現にトライアングルスペルとスクウェアスペルじゃ天と地ほどの差があるわ」 「具体的ニハ? 金ヲ作レルトカ作レナイトカ、ソーイウレベルデハ話ガ掴メナイ」 「そうね……」 そう言ってルイズが考え込んだ時だった。 「ミス・ヴァリエール!」 「は、はい!」 「今は授業中ですよ。 使い魔とお喋りするのは後になさい」 「すいません……」 「お喋りするヒマがあるなら、あなたにやってもらいましょう」 「へ? な、何をですか?」 「ここにある石ころを、あなたの望む金属に変えるのです。 さあ、やってごらんなさい」 そう言われたものの、ルイズは行こうとしない。 何やら困っているような、戸惑っているような、そんな様子だ。 そして、周囲の生徒達もざわつき始める。 だがホワイトスネイクはその理由が分かっていない。 周囲の様子から「ルイズは練金が苦手なのだろうか?」と若干的を外した事を考えたぐらいだった。 そして少しした後、ルイズは意を決したように立ち上がり、 「やります」 とだけ言った。 それを聞いた教室の生徒全員が、一斉にさっと青ざめる。 「ミセス・シュヴルーズ! ルイズに魔法を使わせるのは危険です!」 キュルケがすぐに抗議の声を上げた。 「あら、どうしてですか? ミス・ツェルプストー」 「……ミセス・シュヴルーズはルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ、でもミス・ヴァリエールが努力家ということは聞いています。 さあ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。 失敗を恐れていては何も出来ませんよ?」 ダメだ。 「ルイズが失敗する」ことまでは察してくれたようだが、 ルイズが魔法を使うことの危険性はさらにその先にある。 この教師にはそれが分かっていない。 そのことが、キュルケには理解できた。 「ルイズ、やめて」 キュルケが顔を青くして懇願する。 しかし教壇の方へ向かうルイズが振り向くことは無かった。 ホワイトスネイクはその後ろ姿を眺めた後、教壇と今の自分の位置を目測で測った 距離、約17メートル。 問題なく射程内であることを確認すると、ホワイトスネイクは指を組んでルイズの実習を見守った。 「ではミス・ヴァリエール、やってごらんなさい。 錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 ルイズはこくりと頷いて杖を振り上げる。 そして呪文を唱えて、杖を振り下ろすと―― ドッグオォォォン! 爆発したッ! 爆風をモロに受けたシュヴルーズは吹っ飛ばされて黒板に叩きつけられる。 そして教室にいた生徒達も、やはり同様に被害を受けた。 悲鳴が教室中に巻き起こる。 生徒達の使い魔は爆発に驚いて暴れ始め、そのうち共食い(厳密には共食いではないが)が始まりかけた。 そして爆発を起こした張本人であるルイズはというと……。 「マサカ、爆発スルトハナ……」 呆れた口調で言いながら教壇の上に浮かぶホワイトスネイクに抱えられていた。 爆発からは無事に逃れていたのだ。 だが―― 「教室ノ後片付ケカラハ、流石ノ私デモ逃ガシテヤレンナ」 「うるさい」 「キュルケ……ダッタカ。アノ女ガオ前ヲ『ゼロ』ト呼ンデイタノハコウイウコトダッタノダナ。 『成功率がゼロ』ダカラ……ダッタワケダ」 「うるさい!」 教室の隅っこからルイズが大きな声を上げた。 ルイズは後片付けをしていない。 ただ膝を抱えて座っているだけだ。 爆発で大破した教卓や割れた窓ガラスはホワイトスネイクが片づけていた。 そして教卓の残骸が片付いたあたりで、ホワイトスネイクがルイズに声をかけた。 「ルイズ」 「何よ?」 「不貞腐レルノハ勝手ダガ、自分ガシタコトノ片付ケクライハ自分デヤルベキダ」 「……主人の失敗は使い魔の失敗でもあるの だから片付けもあんたがやるのよ」 「ソウ言ウト思ッテイタヨ。コノ甘ッタレガ」 「な、なんですってえ!」 ルイズは思わず立ち上がったが、すぐにもといた場所に座り込んだ。 自分が「ゼロ」だってことは、自分がいちばん目を背けたいことだったからだ。 そしてそれが「甘ったれたこと」だってことも、ルイズには分かっていた。 分かっていても、眼を背けずにはいられないことだったから。 だから、それ以上言い返せなかったのだ。 「ルイズ」 「……何よ?」 「教卓ガアッタトコロマデ来イ」 「……何で?」 「私ハルイズカラ20メートル以上離レル事ガデキナイノダ」 「……どういうことよ? それに『メートル』って何?」 「メートルハ単位ダ。……1メートルガコノグライダナ」 そういって手で幅を作るホワイトスネイク。 「それ、『1メイル』じゃないの?」 「『メイル』?」 「ええ。1メイルが今あんたが示したぐらいの大きさ。 ついでに言うと、それの100分の1が1サント、それの400倍が1リーグ」 「覚エテオク」 「あんたって、相当辺鄙な場所から来たのね」 「国ガ変ワレバ法モ変ワル、トイウヤツダ。 別ニド田舎暮ラシダッタワケジャアナイ」 「ふーん、まあいいわ。そういうことにしといてあげる。ってそうじゃないわ! 何であんた、わたしから20メイルより遠くに行けないのよ!?」 「ソレガ私ノ性質ダカラダ、トシカ答エヨウガナイナ」 「……要するに、よく分かんないけどあんたの中で決まってること?」 「ソンナモノダ。分カッタラ早ク来イ」 渋々ホワイトスネイクが示した場所まで行くルイズ。 ホワイトスネイクはそれを確認すると、ルイズがさっきまでいたところとは反対側の窓を片づけ始めた。 そして手を動かしながら、ホワイトスネイクはルイズにまた声をかけた。 「ルイズ」 「……今度は何?」 「今ノ自分ノ才能ガ、自分ニ適シテイルト思ウカ?」 「……そんなこと、思うわけないじゃないの!」 「ナラバオ前ニ適シタ才能トハ何ダ?」 「そんなの……そんなの分かるわけないでしょ!? 一体いつからわたしがこんなだと思ってるのよ? わたしがどれだけ普通の魔法を使いたいって思ってきたか、あんたに分かるの!?」 ルイズの中の抑えきれない感情が、堰を切ったように溢れ出した。 「選べるなら選んでたわよ! だけど選べないのよ! 生まれたときから決まってて、ずっと押し付けられて生きてきたのよ!? 自分が火の魔法で暖炉に火をつけるところ! 水の魔法でお花に水をあげるところ! 風の魔法で風車をまわすところ! 土の魔法で石ころを銅に変えるところ! 何度だって夢に見たわ! 普通の魔法を使える自分を、何度だって夢に見たのよ! だけどできないのよ! どれだけ頑張ったって、どれだけ勉強したって! これ以上……これ以上、わたしに何を夢見ろって言うのよ!!」 それが、ルイズが16年間溜め込んだ感情だった。 頭の中はかまどのように熱くなって、滲んだ涙で視界はぼやけた。 まだ吐き出し足りなかった。 でも、これ以上は言えない。 何か言ったら、涙声になってしまいそうで―― 「同情スルツモリハナイ」 ホワイトスネイクの唐突な言葉に、ルイズはきょとんとした。 「ダカラトイッテ知ラヌフリハシナイ。 コレハ私ニモ関ワルコトダカラナ」 「え?」 「オ前ガ望ムナラ……私ハオ前ニ『普通の魔法』ヲ与エルコトガデキル。 『適材適所』トハ逆行スル形ニナッタトシテモ、ダ」 「どういう、こと……?」 「……見セタ方ガ早イナ」 ホワイトスネイクはそう言うが早いがルイズに歩み寄ると―― ドシュンッ! ルイズの額を切断せんばかりの勢いで、手刀を水平に振るったッ! 「ひゃあっ!」 突然の暴挙にルイズは思わず目をつむって叫ぶ。 …しかし、 「…あ、あれ? なんとも…ない?」 痛みらしい痛みが何も無いことに気づくと、ルイズは恐る恐る目をあける。 すると―― 「な、ななななな何これ! わたしの頭から何が出てきてるの?」 ルイズの額から、一枚のDISCが飛び出ていた。 「ちょちょ、ちょっとホワイトスネイク! ああ、あ、あんた一体、わたしに何したのよ!」 ルイズが色々と喚いているが、ホワイトスネイクは無視する。 そしてルイズの額から出てきたDISCを抜き取る。 「わっ! と、取れた!」 ルイズが何か言うが、やはりホワイトスネイクは無視した。 そして抜き取ったDISCの表面に目を通すと……そこに現れていた文字は、「ゼロ・オブ・ドットスペル」。 早い話、「ゼロのドットスペル」ということだ。 今ホワイトスネイクが抜き出したのはルイズ自身の魔法の才能。 正確にはホワイトスネイク自身、スタンドや感覚と同様に抜き出せる自身が無かったので、こうしてルイズで試したのだ。 試したのだが…… (DISCニマデ『ゼロ』ト書カレテイルノデハ救イガ無サスギルナ。 ココニハ触レナイデオク方ガイイダローナ……) 「サテ……『何をしたのか』……ダッタナ。君ノ『魔法の才能』ヲ抜キ出シタノダ。 魔法ガ果タシテ他ノ感覚ナドト『才能』トシテ抜キ出セルモノナノカ、確証ガ無カッタノデナ」 「才能を……抜き出す? あんた、何言ってるの?」 「分カラナケレバ、ソウダナ……モウ一度サッキノ錬金ヲヤッテミルトイイ」 「さっきと何も変わらないと思うけど……」 そう言いながらルイズは杖を抜き、ルーンを唱え始める。 そして手ごろな場所にあった木の破片目掛け、杖を振り下ろす。 だが―― 「……あれ? 爆発……しないの?」 さっきとは違い、何も起きなかった。 「当然ダ。今ノルイズハ魔法ノ才能ヲ失ッテイルノダカラナ」 「魔法の才能って…もしかしてさっきの!」 「ソウダ。先ホドルイズカラ抜キ取ッタDISCガ、ルイズノ魔法ノ才能ダ」 「ちょっとあんた、何してんのよ! これじゃただの平民と同じじゃない! 返して!」 「返シタトコロデ、使エルノハ爆発ダケダゾ?」 「……っ!」 事実だった。 ホワイトスネイクが手にする才能が自分に戻ってきたところで、 結局できるのは失敗魔法の爆発だけ。 自分が「ゼロ」であることに何も変わりは無い。 「そ、それでもよ! それでも、それさえなかったら、本当に何も無くなっちゃうじゃない!」 そんなルイズの苦渋に満ちた訴えに対し、 「……ルイズハ存外ニ察シガ悪イナ」 ホワイトスネイクはあくまで冷淡に、さらに別のベクトルの意味を加えて答えた。 「ルイズカラ今ノヨウニ魔法ノ才能ヲ抜キ取レルトイウ事ハ……他ノ者カラモ魔法ノ才能ヲ抜キ取レルトイウ事ダ」 「……あんた、まさか!」 「ヨウヤク理解シタナ」 ホワイトスネイクは口の端に笑みを浮かべると、話を一気に結論に持っていく。 「ツマリ君ハ他ノ誰カカラ魔法ノ才能ヲ奪イ取ル事ガデキルノダ」 「…ち、ちょっとあんた、自分が何言ってるか分かってるの!?」 「当然ダ」 「じゃあ何でそんな事!」 「私カラスレバ、何故ルイズガソレヲ拒ムノカガ理解デキナイナ。 私ガ言ッテイルノハ、魔法ヲ使エナイオ前ヲ救済スルタメノ方策ダゾ?」 「そんなやり方で魔法なんか使えるようになりたくないわ! 私だって分かるわよ。魔法の才能をあんたに取られたら、その人はもう魔法を使えなくなるって事ぐらい!」 「ダガ魔法ヲ使エナクナルノハオ前ヲ『ゼロ』ト呼ンデ侮辱スル者ダ」 「それは! そう、だけど……」 「昨日ノ広場……今朝会ッタキュルケ……ソシテ授業前ノ教室……。 私ガ見テキタ限リデハ、ルイズハ余リニ多クノ者カラ蔑マレテイル。 オ前ヲ『ゼロ』ト呼ンデ蔑ム事ヲ当タリ前ニシテイル奴等バカリダッタ。 ナノニ、ドウシテ拒ム理由ガアル? 何故躊躇ウ?」 ルイズはホワイトスネイクの言葉を唇を噛み締めて聞いていた。 ホワイトスネイクの言っていることに間違いはなかった。 自分は吐き出した。 これまでの鬱憤を、苦しみを、絶望を。 それを聞いた上で、その上で自分が「ゼロ」の汚名から抜け出す道を作った。 でも…そうだとしても…… 「わたしは…やらないわ」 ルイズには、その道を選ぶことはできなかった。 ホワイトスネイクは、すぐさま問いを投げかけるような事はしなかった。 ルイズが言葉を続けるのを待っていたのだ。 「貴族らしくない……と、思うの」 「貴族はね、背を向けないものなのよ。逃げちゃいけないものなの。 貴族には領地があって、領民がいて、それでみんなを支えてるから。 だから逃げちゃいけない。どんなことに対しても、自分の才能に対してでも、絶対に」 ホワイトスネイクは黙ってそれを聞いていた。 そして口を開く。 「例エ魔法ガ使エナクトモ、例エ『ゼロ』ト蔑マレヨウトモ……ソレデ構ワナイノダナ?」 「あんたが示した方法を使うぐらいならね」 「……ソウカ」 ホワイトスネイクはこのことに関して、それ以上は何も聞かなかった。 「ダガ……モウ一ツ、理由ガアルンジャアナイノカ?」 「え?」 「ルイズガ私ノ提案ヲ退ケタ理由……ルイズガサッキ言ッタモノトハ別ニモウ一ツ、アルヨウニ思エルノダナ……」 ルイズは、ホワイトスネイクの洞察力に背筋が冷える思いがした。 確かにその通りだった。 貴族らしくないからやりたくない、というのは事実だが、実際のところそれは建前にすぎない。 そんなことよりも、もっと大切な理由があったのだ。 だが―― 「言いたくないわ」 ホワイトスネイクにはまだそれを言いたくなかった。 それはルイズにとって、とても大事なことだったから。 「……ソウカ。ナラバ無理ニハ聞カナイ」 ホワイトスネイクはそれだけ言って、手に持っていたルイズの魔法の才能――『ゼロ』のDISCを、ルイズの額に差した。 DISCは静かな音を立てて、ルイズの中に戻っていった。 「人間ハ…時ニ『納得』ヲ必要トスルモノダ。 『納得』ノ無イ道ニ対シテハ、ソコカラ一歩モ先ヘ進メナイ。 ソレハ人間ガ自分ノ精神ニ強イ芯ヲ必要トスルカラダ」 「ソレニ私ハタダ、ルイズガドノ道ヲ選ブノカヲ見テイルダケダ。 ルイズガ納得出来ナイ、選ベナイト判断シタ道ハ、遠慮ナク捨テ行ケバイイ」 ホワイトスネイクはそう締めくくると、音もなく姿を消した。 ホワイトスネイクは言った。 自分が必要ないと判断した道は、遠慮なく捨てていけばいい。 自分は本当に心から、納得できないと、そう思っているのか? 本当に、あの「魔法の才能を奪う力」に未練は無いのか? いや……きっと、ある。 それどころか、喉から手が出そうなくらいに、魔法の才能を欲しがってる。 あんな奴らが、自分をいつもゼロ、ゼロと呼んでバカにする奴らが魔法を使えて、何で自分が使えないのか。 勉強なら誰よりもした。 魔法が使えるようになるためにどんな努力だってした。 なのに…なのに、自分は魔法を使えない。 こんなの、あんまりだ。 ろくすっぽ努力もしない貴族のボンボンに魔法が使えて、自分にはできないなんて……。 でも、とルイズの中で何かが囁く。 そんなやり方、「あの人」は絶対に喜んでくれない。 ホワイトスネイクの提案は、今までの自分の努力を全部フイにしてしまうものだからだ。 「あの人」が応援してくれたのは、そんな提案を呑む自分じゃないはずだ。 それに自分の根っこの方でも、ホワイトスネイクの提案を拒んでる。 でも魔法は使えるようになりたい。 でも、ホワイトスネイクの提案を受け入れたくは無い。 でも。 でも。 でも。 でも…………。 胸中に渦巻く思いを抱えながら、ルイズは重い足取りで教室を出た。 スタンド使いは、自分のスタンドを選べない。 しかし、誰もそのことに不平不満を並べたりはしない。 なぜか? どんなスタンドにも必ず「最良の使い道」が存在するからだ。 そしてその「最良の使い道」は、スタンド使い達が心の奥底で望んだもの。 だから見つけることが出来るのだ。 では、これをルイズの問題に置き換えることは可能だろうか? ルイズは魔法を使えない。 使えるのは爆発を起こす失敗魔法だけである。 結論から言えば、「最良の使い道」はルイズの失敗魔法には存在しないだろう。 何故ならルイズは自分の失敗魔法が大嫌いで……そして、普通に魔法が使える事を、心の底から望んでいるからだ。 にもかかわらず、ルイズはホワイトスネイクの申し出を断った。 口では「貴族であるため」とかなんとか言っていたが、本当の理由はそんなんじゃあない。 多分、いや確実に……誰か他の人間のためだ。 どんな人間でも心の拠り所にするものは、地位か誇りか人だけ。 ホワイトスネイクが20年間で得た考えがそれである。 ルイズに地位はなく、そして誇りがよりどころではないのだから……残るは人のみだ。 だからそう判断した。 とはいえ、そんなことはホワイトスネイクにとってどうでもよかった。 重要なことは、「つまらない理由のためにルイズが望みを捨てたこと」だ。 自分のプライド、そして人とのつながりのために念願を放棄する。 実にくだらない。 かつてプッチ神父と戦い、あと一歩のところまで追いつめた徐倫も、 父親とのつながりのためにプッチを仕留め損ねた。 人と人のつながりなど、足枷にしかならないのだ。 だがルイズは足枷を選んだ。 ホワイトスネイクはそのことに少なからず失望した。 そして、ひとつの確信を得た。 ルイズは、「ホワイトスネイク」というスタンドを扱うことに、決定的に向いていない。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/932.html
「どう?平民に見下ろされる気分は?」 トリッシュの顔を見上げるルイズ。身体を動かそうとするが、なぜか地面に服が張り付いて動けない。 「マジでビビッたわ、アンタの魔法。マリコルヌがアンタのこと『ゼロ』って言ってたけど、 それってなんでも吹っ飛ばすから『ゼロ』って呼ばれてるのかしら?」 ルイズは悔しげに顔を歪ませトリッシュから視線を逸らす。ルイズが魔法の才能『ゼロ』だから そう呼ばれていることをトリッシュは知らない。 「平民にまで………負けて……私は…」 ルイズの呟きをトリッシュは聞こえなかったのか、聞かないフリをしたのか、無視して話を続ける。 「さっきの演技も…騙されたわ。正直アンタが脚を狙わなかったら負けてたわね」 それも違う。本当は胴体を狙ったのに脚に当たった。魔法の成功率も命中率も『ゼロ』 ルイズは『ゼロ』とバカにする者たちの顔を思い出し、平民にまでバカにされ泣きそうになる。 今にも泣きだしそうなルイズに顔を近づけ、トリッシュは囁きかける。 「今からアンタを殺すんだけど、もしアンタが土下座しながら私に、 『お許し下さいトリッシュ様。二度と逆らうようなことは致しません。どうかご慈悲を』って 言うなら命を取らないであげるわ。どう?私って優しいでしょ」 トリッシュはその眼に凍てつくような殺意を込めてルイズに微笑みかける。 ルイズは視線をトリッシュに移しその眼を真っ向から見据える。その眼に強い意志が戻っていた。 「私には貴族としての『誇り』があるわ!そんな恥ずかしい真似は絶対にしない!!」 ルイズは眼に怒りを宿しながら、“さっさと殺せ”と叫ぶ。それをトリッシュは冷たい眼で見下ろしていた。 「そう。いいわ殺してあげる。だけど、その前に一つ質問をするわ」 「まだ言うつもりなの!早く殺しなさい!!」 叫ぶルイズの顔を引き寄せ、澄んだ眼でルイズを見つめトリッシュは語りかけた。 「アンタさっき『誇り』って言ったわよね。じゃあ質問よ。平民に『誇り』はあると思う?」 「なに言ってんのよ!そんなの知るわけないでしょ!!」 「真面目に、答えて」 トリッシュの有無を言わせぬ迫力にルイズは口を閉ざし……生まれて初めて平民について考えた。 しかし、判らない。公爵家の三女として生まれ、平民は貴族に傅く者。貴族に奉仕するもの。 そう教えられ、そう思って今まで生きてきた。事実、全ての平民は自分の前に跪いた。 だから平民に貴族と同じく『誇り』があるのか判らなかった。 「わから……ない…わ」 ルイズがなんとか言葉を搾り出し、それを聞いたトリッシュがルイズの顔から手を離し立ち上がる。 殺されると思い、怒りが冷めて目の前に迫る死に恐怖し身体を竦ませ眼を瞑る。 だが、幾ら待っても最後の瞬間が訪れない。 怖々と眼を開くとトリッシュはルイズを見つめていた。眼を開くのを待っていたようだ。 「アンタ。シエスタの髪をバカにしたとき、彼女の顔を見た?」 質問の意味が判らなかった。シエスタとはあのメイドのことだろう。見ていないので首を振る。 「あの子、怒りと悔しさが混じった顔をしてたわ。『誇り』を傷つけられた顔をね」 ルイズはそのときの光景を思い出した。髪を罵ったとき、あのメイドの肩が震えていた。 あの時は怯えているものとばかり思っていた。 「私はあの子のことは良く知らない。この世界のこともね。アンタたち貴族が好き勝手に 振る舞おうと正直に言って私の知ったことじゃないわ」 言葉を区切り、トリッシュはルイズを見つめる。二人の視線が絡み合った。 「でも…『誇り』を傷つけることは許せない。それを目の前で見過ごすことはできない。 それを許したら『誇り』を守って死んでいった『仲間』に対して顔向けができないわ」 ルイズは悟った。トリッシュはあのメイドを庇ってルイズと決闘した訳ではない。 メイドの『誇り』が傷つけられたから戦ったのだ。 「アンタはまだ幼いわ。自分が誰なのかも判っちゃいない。だから、今は殺さないであげるわ」 そう言ってトリッシュはルイズに背を向けて脚を引きずりながら広場から去って行った。 ルイズは呆然と座り込む。いつの間にか、動けるようになっていた。 「あ~あ、平民にまでバカにされてダメね~。あなたをライバルだと思ってた自分が情けないわ。 帰るわよタバサ。『なにをすれば良いのか』も判らないおバカはほっときましょ」 歩き出したキュルケの後をタバサが追って二人は歩き出す。 つまらなそうなキュルケの顔をタバサは感情の伺えない眼で見つめ、その視線に気付いた キュルケはタバサを無視しようと思ったが、できなかったので唇を尖らせながら話しかける。 「なによタバサ。そんな眼で見ないでよ」 「ツンデレ」 タバサは小さな声で呟き歩みを速める。その後を顔を真っ赤にしながら叫ぶキュルケが追っていった。 「おいルイズ、大丈夫か?怪我してるんだろ?」 彼女の使い魔の少年が話しかけるがルイズは放心したまま動かない。 「なんだよ負けたことを気にしてるのか?別に良いだろ?勝率が『ゼロ』からマイナスに…ふぐりッ!!」 ルイズは『ゼロ』の言葉に反応して少年の股間を蹴り上げると、フラフラと立ち上がり 覚束ない足取りで医務室を目指し歩き始めた。 ルイズが立ち去った後、広場は男たちの泣き声と呻き声の三重奏に支配された。 トリッシュがヴェストリの広場を立ち去ったのと同時刻。中庭での惨劇も終焉を迎えていた。 倒れたコルベールに使い魔が襲い掛かるが、コルベールは平然と使い魔を待ち受ける。 体当たりの直前で使い魔は軌道を変え、コルベールの脇をすり抜けて迷走し始めた。 「ミスタ・コルベール!大丈夫ですか?!」 コルベールは慌てた様子で近づく一人の生徒に微笑んで立ち上がる。 「私なら大丈夫だ。すまないが君も怪我人を運ぶのを手伝ってくれ」 「判りました!しかし、あの使い魔はいったい……?」 先程まで暴れていた使い魔が目標を見失ったように迷走する様を見て生徒は不思議がる。 「あの使い魔は私の放った炎全てに体当たりをしたんだ、外れたものも含めてね。 それを見て判ったんだよ。あの使い魔は熱を探知して襲い掛かるんだってね」 迷走する使い魔には釣り竿のような物が付けられ、その先端にはコルベールが灯した 炎が揺らめいていた。 「フギャ?!」 猫のような植物がミセス・シュヴルーズに狙いをつけた直後、猫のような植物の周りの 赤土が盛り上がりゴーレムが姿を現した。ゴーレムはそのまま猫のような植物を 地面ごと持ち上げどこかに運んでいった。 「見せようよ『背中』ねっ」 ギトーは背中の使い魔を剥がすことを諦め、杖を自分に向ける。 「じゃあ後は頼むぞ『私』」 「ああ、任せろ『私』」 自分がとり憑いた人間と同じ顔をした人間がもう一人現れ使い魔は混乱した。 「えっ?どうなってるの?えっ?」 「これが風の系統が最強たる所以だ。お前がとり憑いたのは私の分身だよ」 ギトーの『偏在』が自殺し、本体を失った使い魔も虚空へと消えていった。 教師たちの戦いの一部始終を鏡から覗いていたオスマンは、溜息を吐いて椅子に身を沈める。 この程度の事態を自力で解決できない者などオスマンの元には一人もいない。 教師たちの心配はしていなかったが、未熟な生徒たちに被害が出たことが唯一気掛かりだった。 これだけの事件となれば揉み消すことなどできない。やがて王宮より査察団が来るであろう。 そのことがオスマンの頭を悩ませた。 査察団が問題ではなく、それを率いる人物が問題なのだった。 ジュール・ド・モット。この男は女好きで有名な貴族で、トリステイン魔法学院においても若いメイドに 眼を着け自分の屋敷に迎え入れることが度々あった。 そして、この男には黒い噂があった。迎え入れたメイドが数日後に失踪するのだ。 使用人が失踪すること自体はどの貴族の屋敷でも稀にだがある。 大抵が酷い扱いを受けて逃げ出すのだが、この貴族の屋敷では必ずそれが起こった。 それもメイドだけではなくその家族も含めてだ。 しかし平民が貴族を訴え出ることなどできる訳がなく、貴族は平民のことなど気にもしない。 「若い子らを隠すかの~」 オスマンはもう考えを廻らせて、もう一度溜息を吐いた 戦場のように慌しい医務室まで続く廊下をルイズは夢遊病者のような足取りで歩いていた。 次々と運ばれる怪我人の呻き声と医師たちの叫び声も耳に届かず、トリッシュの言葉が頭の中で 渦を巻いて鳴り止まない。 貴族の『誇り』とは敵に背を向けぬこと。両親からそう教わった。だが、目の前に死が迫ったあの時、 怖かった。逃げ出したかった。死にたくないと思った。 自分が情けなくなる。魔法が使えないから他人よりも貴族らしく振る舞おうと必死だった。 それがどうだ、蓋を開けたら中身は『ゼロ』。貴族の欠片も残ってはいない。 貴族と言う肩書きを取ったら自分になにが残るのか?『ゼロ』だ。何も残らない。 自分に付けられた『ゼロ』の二つ名。今までそれを否定してきたが、それは当たっていたのだ。 魔法の才能『ゼロ』、中身も『ゼロ』、ゼロ、ゼロ、ゼロ、自分には何もない。 そう思ったら、可笑しくなって、いつの間にか泣いていた。 「ミ……ヴァ…エール?ミス・ヴァリエール?!」 誰かが自分の名前を呼んでいる。顔を上げたら一番会いたくない人物がそこにいた。 「ミス・ヴァリエール!?ご無事ですか?!酷い怪我を……早くこちらへ!」 連れられるままに医務室まで辿り着く。 「先生、怪我人です!ミス・ヴァリエールがお怪我を!!」 「すぐに終わる!そこで待たせておいてくれ」 ルイズとシエスタの間に気まずい空気が流れる。それを感じているのはルイズだけだが。 「ねえ…どうして……?」 「如何なさいました?!傷が痛み……」 「どうしてよ!!」 ルイズの叫びにシエスタの言葉は掻き消された。 「どうして……なんで…私に優しくするのよ!!」 「なぜと申されましても、私は貴族の方々をお世話する……」 「だからどうしてなのよ!!私はアンタに酷いこと言ったじゃない!アンタの髪の色をバカにしたじゃない!! どうしてなのよ……どうして…………」 感情が昂ぶり、ルイズは再び泣き出した。その様子を見てシエスタはルイズの涙を拭い優しく微笑む 「そうですね、あの時は凄く悔しかったです。私の髪の色って死んだおじいちゃんと同じ色なんです。 だから、おじいちゃんをバカにされた気がして……あっ!でも、もう気にしていませんから」 ルイズはやっとトリッシュの言葉の意味を理解した。 トリッシュは誇りを守って死んでいった仲間を、シエスタは祖父を侮辱されたことが許せなかったのだ。 いつも自分のことばかりで他人を省みなかったことが恥ずかしくなった。 「ア…アンタの髪の色ってさ……よく見ると結構キレイじゃない…私のマントみたいで……」 ルイズは真っ赤になりながらも、なんとか言葉を口にして顔を背ける。 シエスタはルイズを不思議そうな顔で見て、笑って頷いた。それを見てルイズも漸く笑った。 「なんだかさ~前より脚が太くなった気がするわ。ほら、太ももとかさ~」 「そんなはずはない。後がつかえてるんだ、早く出て行きなさい」 聞き覚えのある声にルイズとシエスタが振り向く。医者に追い出され医務室から出てきたのは 脚に包帯を巻いたトリッシュだった。 「ア、ア、アンタ!なんでここにいるのよ!?」 「なんでって、アンタに脚を吹っ飛ばされたからでしょ。もう忘れたの?」 「ミス・ヴァリエールに?!」 驚くシエスタに挨拶して、トリッシュは脚を引きずりながらルイズと擦れ違う。 その後ろ姿にルイズは恥ずかしそうに声を掛けた。 「ひょ、ひょっとして…聞いてた?」 「なにも聞いてないわ。どうしてよ!とか~私のマントが黒くてキレイだ。なんてぜ~んぜん聞いてないわ」 「ぜ、全部聞いてるじゃないのーー!!」 今度は怒りでルイズの顔が真っ赤になる。 「次!早くしなさい!!」 「ミス・ヴァリエール。先生がお待ちですから」 シエスタに促され、恨みがましい眼でトリッシュを見ながらルイズは医務室に入って行った。 翌朝のアルヴィーズの食堂。 トリッシュは相変わらず貴族の席で食事を取り、ルイズがそれに絡んでいる。 昨日とまったく同じ光景だがルイズが昨日と違い本気で怒っているのではなく、トリッシュと じゃれ合っているような印象を受ける。 ルイズが包帯が巻かれた手で白魚のムニエルと格闘していると、トリッシュがそれを取り上げ綺麗に切り分ける。 「その手じゃ食べにくいでしょ?はい、あ~ん」 「こ、子供じゃないんだから!一人で食べれるわ!!」 「あ~ん」 「い、一回だけだからね!」 ルイズは顔を真っ赤にしながら口を開ける。ルイズの口に白魚の切り身が入ろうとした時、 トリッシュはフォークを返してそれを自分の口に放り込む。 「結構イケルわね」 「あ~っ!なんでアンタが食べてんのよ!!」 キュルケは離れた席でルイズとトリッシュの微笑ましいやり取りを眺めていた。 「そうでなくっちゃ私のライバルの資格はないわ」 「あ~ん」 タバサがいつの間にか白魚の切り身が刺さったフォークを差し出している。 「私もやるわけ?」 「あ~ん」 「はいはい、しょうがないわね。」 キュルケは眼を瞑って口を開ける。タバサがフォークを口に入れようとして、その手を止める。 「かかったなアホが」 右手の切り身はフェイント!本命は左手に握られたはしばみ草が刺さったフォークだ!! キュルケの口の中は白魚のムニエルを迎える準備が完了し、後はそれを待つだけとなっていた。 そこにとっても苦いことで有名なはしばみ草が襲い掛かった!! 攻守共に完璧な攻撃が口の中を襲い、キュルケの絶叫が食堂中に響き渡った。